「宮坂が中途半端なことばっかするから、木瀬だって諦めつかないんじゃねぇの? 『好きじゃない』っていうのは『嫌い』って意味じゃないだろ。付き合う気がないなら、はっきりふってやるのが優しい対応だと思うけど」
階段を降りかけたあたしの背中に、冴島先生が話しかけてくる。
立ち止まって振り返ると、彼が意味ありげににやりと笑った。
「木瀬のことはっきりふってやれないのは、あいつのことが好きだから?」
「は? 何言って────」
「だけど友達の武田が木瀬を好きだから、宮坂はずっと遠慮してる。でもお前だって木瀬が好きだから、あいつのことを完全には拒めない」
あたしの言葉を遮って、冴島先生が言葉を続ける。
それから一旦口を閉ざすと、「違うか?」とでも言いたげに口角を引き上げた。
階段の手摺に肘をついた冴島先生が、全てを見透かすような目であたしのことを見下ろしてくる。
「後悔しねぇの?」
冴島先生の声が、薄暗い踊り場に静かに響く。