涼太はゆっくりと落ちていく写真を視線で追ったあと、あたしに視線を戻した。
数秒ほど、涼太が真っ直ぐな瞳であたしを見つめる。それから何も言わずにあたしに背を向けると、ひとりで階段を降りて行ってしまった。
その場に取り残されたあたしは、床に落ちた写真を泣きそうな目で睨みつけた。
何やってるんだろう……
視線の先では、涼太とあたしが微妙な距離感をとって並び、困ったように、不器用に笑っている。
今年が高校生活最後の文化祭だ。あたしの髪をアレンジして、一緒に文化祭を回って。ひとりでゴミ捨てに行くあたしを追いかけてきてくれて。そうやってあたしに構ってきた涼太は、付かず離れずの微妙な距離をくっつけてしまいたかったのかもしれない。
だけど……、あたしはずっと、涼太とは写真の中のままの距離を保っていたかった。
だってそうすれば、傷つかない。
写真を睨みながら、唇を噛み締める。そのとき。
「あーあ。木瀬かわいそー」
明らかに人をバカにするような声が、頭上から降ってきた。
驚いて顔をあげると、踊り場から屋上の入り口へと続く階段の手摺から、冴島先生が身を乗り出している。
「ケチだな、宮坂。チューくらいさせてやればいいのに」
冴島先生が手摺からあたしを見下ろしながら、にやりと笑う。