「平気」
頬が真っ赤に染まっている自覚は充分にある。それでも素っ気無い声で答えた。
涼太との距離が近い。鼓動が速くなる。だんだんと加速する鼓動がこれ以上早く鳴り出す前に、涼太の胸を手の平で押しのけた。
「あたし、行かないと。当番あるから」
そう言った自分の声が、なんだか言い訳がましいような気がする。
「うん、頑張って」
あたしは照れくさそうに笑う涼太に小さく頷くと、彼に背を向けて控え室のドアに向かって真っ直ぐに歩いた。
歩き去って行くあたしの後ろ姿を、涼太がじっと見つめているのが気配でわかる。
涼太の眼差しを感じて、無防備に晒された首の後ろがチリチリと熱くなる。
あたしは涼太のことをちらりとも振り返らずに真っ直ぐに歩き続けると、後ろ手に控え室のドアを閉めた。
閉まったドアに軽く背をもたれかけて、大きくて深い息をつく。