「うん、このシーンはここまでだね。付き合ってくれてありがとう」

「なんか、ごめん。下手くそで……」


 台詞を読み終えると、私は恥ずかしさを隠すように俯いた。


「大丈夫! 台詞ってね、台詞だと思って〝読んじゃ〟駄目なんだ。〝話す〟んだよ。今こうして、螢ちゃんと僕が話しているように、〝普通に言葉を話す〟ように言えばいいんだよ」

「普通に、話すように……」

「そう。台詞は、読んだら駄目」


 心がうずうずと落ち着かない。

 もっと知りたい。もっと――

 気持ちがざわめき始めた時、聞き慣れた声が、駐輪場の方向から聞こえてきた。


「螢、来てるか?」

「え、あ、うん! 居るよ!」


 幼馴染みの俊太だ。こちら側へ回り込んでくる足早な足音が近付いてくる。


「知り合い?」

「うん、幼馴染み」


 紺色の傘を差して現れた俊太は、星原くんの姿を見付けると、少し驚いたような表情で固まった。


「えっと……?」

「どうも、初めまして。僕は星原 佳。春休みの間だけこっちの、祖父母の家に来てるんだ。この辺を散策していたら雨が降りだしたものだから、近くに見えたこのプレハブで、雨宿りをさせてもらってたんだ」

「私が来たときには、もう雨宿りしてたんだよ」

「あー、なるほどな。俺は野田(のだ)俊太(しゅんた)だ。ここじゃちょっと肌寒いだろ? まあ入れよ」


 俊太は自分のバッグから鍵を取り出すと、プレハブ小屋のドアを開けた。