オープン・ステージ

 急いで歩いているのに、浴衣では歩幅が狭く、なかなか目的地へ着くことが出来なかった。

 佳くんを待たせてしまっている。急がなければ。

 太鼓や笛の音が徐々に大きくなっていく。
 田舎だというのに、こういう時だけは、信じられないほどの大勢の人が集まってくる。
 こんなに凄い数の人間が、普段は一体どこに居るのだろうかと毎回思う。

 約束の場所へ向かう。
 赤い鳥居の右側。
 約束の時間から四十分近く過ぎていた。


「あーもー、スマホ……」


 歩いている途中で、スマートフォンを自分の部屋に忘れてきてしまった事に気が付いた。


「やっぱり戻ればよかったかな……」


 佳くんは待ち合わせ場所に居なかった。

 私が俊太の方へ行ってしまったのだと思い、帰ってしまったのだろうか。
 よく目を凝らして辺りを見回した。


 やっぱり居ない。


 どうしよう。一度家に戻った方が早いかもしれない。
 でも、少しだけこの場を離れているだけだったとしたら……。


「下手に動かない方がいいのかな」


 私は少しだけ待つことにした。
 どうしよう。もしも誤解させてしまっていたら。
 約束の時間に姿を現さず、携帯にも出ないなんて、絶対におかしいと思うだろう。

 そんなふうに思いを巡らせていると、ピカピカっと夜空の一部が光った。これは……。


「佳くん……」


 早く逢いたい。
 早くこの想いを伝えたい。
 彼は今、一体どこに居るのだろう。


 胸がざわつく。
 気持ちが焦る。
 早く。
 早く――。


 ぽつり……。
 冷たいものが頬に当たった。
 雨だ。

 今年も夕立がきてしまったらしい。
 祭りの最中に雨宿りに走る事など、ほぼ毎年の事なので、この町の人間は大して騒がない。


「もう、ほんと、夏は夕立ばっか……」


 雨が降ってきてしまったのならば、もうここには居られない。

 私は周りにならうようにして、屋台の屋根の下へと小走りで向かった。
 雨はあっという間に強くなる。
 ドーンと雷鳴が空気を震わせた。

 雷はまだ少し遠くで聞こえたけれど、いつ近くに落ちるか分からない状態だろう。
 少し離れた場所が霞んで見えるほどの豪雨になった。
 数分で通り過ぎていくタイプの夕立かもしれない。

 ぼんやりと夜空を見上げながら溜め息をつく。
 佳くんは今どこにいるの?

 瞬間、バリバリバリッ!! と閃光とともに、大地を割るような凄まじい轟音が落ちた。
 おおっ! と周りの人々が一瞬ざわめく。
 屋台の下では危ないかもしれない。

 夕立が遠ざかったら、また少し待ってみよう。
 それでも来なかったら、プレハブ小屋へ行ってみようか。
 徒歩では少し時間がかかるけれど、寄ってから帰ろうと思った。


「あれ? 水沢さんじゃないですか」