それは、花火の日から二日後の事。

 祖母が他界してしまった。

 母がいつものように様子を見に行ったところ、新聞がポストに入ったままだったそうだ。
 体調でも崩したのかと思い家に入ってみると、いつも座っている場所に姿がなかったという。

 心配になって母がそのまま寝室まで行くと、布団の中で眠った状態のまま亡くなっていたのだと聞いた。

 その表情からは苦しんだ様子はなく、とても安らかだったそうだ。
 死因は老衰。
 誰にも看取られずに逝ってしまったのは気の毒だったけれど、一番幸せな旅立ち方だと、誰もが言っていた。

 亡くなったと聞かされた時、幼い頃に祖母と過ごした日々が、頭の中に次々と浮かんできた。

 祖母は手先が器用だったので、折り紙や綾取り、編み物などがとても上手だった。祖母の手は魔法の手だと、いつも俊太と話していたのだ。

 それから、駄菓子屋までお菓子を買いに行ったり、庭でシャボン玉をしたり、手遊びを教えてもらったりもした。
 色々な思い出が甦ってきた。

 数日前まで当たり前に存在していた人が、今はもう居ない。
 世界中のどこを捜しても、もう二度と会うことは出来ないのだ。


 私は火葬場から帰ってくると、喪服から普段着に着替えて、自分のベッドに寝転んだ。
 無意識に重たい溜め息がでる。祖父の時もそうだった。もう、こんな思いはしたくない。

 時計を見ると、午後二時半を指していた。
 座っていただけなのに、どうしてこんなに疲れているのだろう。

 何もする気が起きず、私はそのまま目を瞑った。泣いたせいか、瞳の奥が少し痛かった。



 それからどのくらい経っただろうか。私は少し眠っていたようだった。
 私を起こしたのは、母の声とノックの音だった。


「螢、ちょっと話があるから下りてきて?」


 私は言われた通り、リビングへ下りていった。

 そこには父の姿もあり、父は私の姿を見ると、手に持っていたコーヒーをテーブルに置いた。

 私が椅子に座ると、母が私に紅茶を出しながら口を開いた。


「あのプレハブ小屋なんだけど、取り壊して土地を売ることにしたから」

「え……?」