オープン・ステージ

 視線をそらしたいと思うのに、まるで彼の瞳に吸い込まれていくような感覚に、抵抗できずに戸惑った。

 佳くんも、ずっと私を見つめている。

 私は今、一体どんな表情をして彼を見つめているのだろう。

 恥ずかしいから、そんなに見ないでほしいのに。

 すると、佳くんの表情から微笑みが緩やかに消えていき、その瞳が寂しげに揺れた。


「もうすぐ、僕の学生最後の夏休みが終わるよ」


 勢いの良かった花火が、燃え尽きて消えていった。
 それと同時に、鈴虫の声が物悲しく耳に戻ってくる。


「そうだね」

「……寂しいよ。二人に会えなくなるのが」


 私だって寂しい。
 でも、まだそんな気持ちにさせないでほしい。


「あ、でも、ほら、まだ夏祭りがあるしね! ね、俊太」


 不自然に明るい声が出てしまったような気がしたけれど、私はなんとか平静を装う。


「俺は行かない」


 え――?


 それはいつもの調子でさらりと発せられた言葉だった。


「え、どうして? お店が忙しいの? だったら、また佳くんとお邪魔し――」

「ホシケイと祭りに行くか、俺の家の手伝いに来るか」


 俊太が私の言葉を遮って口を開いた。


「お前は、どうする?」


 俊太はまっすぐに私を見ている。
 俊太が私の言葉を遮ったことなんて、今までなかった。


「ふーん。そうか、俊太って、やっぱりそうなんだね」


 佳くんが普段と変わらない態度で明るく言った。


「どうして急にそんなこと言うの? 今日まで三人で楽しくやってきたのに」


 俊太の言葉に、私は少しショックを受けていた。
 すると、俊太がぽんと、自分の手を私の頭の上に優しく置いた。


「どうしてだろうな?」


 そう返した彼は、まるで、私がその答えに気付くことを待っているかのように見えた。


「螢ちゃん、僕も、君が来るのを待っているからね。待ち合わせ場所は僕が決めておくから、後で連絡するよ」


 そして私の顔を覗き込むようにして続けた。


「君との思い出がもっと欲しい。足りないんだ」


 暗くてもよく見える距離に二人が居る。
 どうして、三人でずっと仲良くしていようねって言ってくれないのだろう。


 私は、一体どちらへ向かえばいいのだろう。


 家に帰ってからもそんな事をぐるぐると考えていて、その日はよく眠れなかった。