パラシュート花火は暗くなる前にやらなくては見えなくなってしまうということに、今になって気が付いた。


「真っ暗になる前に、パラシュート花火やっちゃおうよ! 良かった、気が付いて。今ならまだ何とか見えるよね。さあ、誰がキャッチ出来るかな~」


 私は着火ライターを持って、庭の真ん中に花火を置いた。


「二人とも、本気でやってよね」

「おい、危ねぇからライターこっちに貸せ。お前、過去に噴水花火を倒したことあるだろ。あれは本当に危なかったからな」

「も、もうしないよ。多分……」

「パラシュートがこっちに向かって発射してきたら笑えねぇんだけど?」


 俊太はこちらに右手を出しながら近付いてきた。
 私は仕方なく、差し出された手のひらに、着火ライターをのせた。


「よし。ホシケイ、準備はいいか?」

「僕はいつでもオーケーだよ」


 アキレス腱を伸ばしていた佳くんが、こちらに向かって親指を立てた。

 俊太が導火線にライターを近付け、視線は離さずに後ろへ下がる。

 ポンッという破裂音が辺りに響き、同時にパラシュートが空へ向かって思い切り飛び上がった。
 薄暗い中、ふわりふわりと落ちてくる。


「あれ? こんなにゆっくりだったっけ?」


 私はパラシュートを目で追いながら口を開いた。

 三人がゆっくりと近付く。
 そして、三人の目の前を、パラシュートが落ちていった。

 コトンと力なく地面に転がったパラシュートを見て、私たちは笑う。


「どうして二人とも取らなかったの?」

「どちらかが取るだろうなと思ったからさ」

「俺も」

「なんか、遠慮しちゃうよね」


 言いながら、私はパラシュートを拾い上げた。
 拾い上げたそれは、昔と変わらない物だった。

 パラシュートの部分は紙風船のような物で作られていて、下にはサランラップの芯を小さくしたような錘が付いている。


「昔は俊太と取り合ってたのにね。いつも私が勝ってたけど」

「ばーか。俺が本気だしてたら、お前は一つも取れなかったぞ」


 そう言って、俊太が私の額を、人差し指で軽く突ついた。
 その眼差しは、昔の私を思い出しているかのように、優しく私に向けられていた。
 その俊太らしくない行動に、私は少し驚いてしまう。