「いただきまーす」

「ごめんね、あんまり種類が残ってなくてさ。思った通り凄い混雑していて、ほとんど売り切れ状態だったんだ」


 おにぎりやサラダ、唐揚げなども二人分あり、充分だと思った。


「全然謝ることないよ」


 私が笑いかけると、佳くんが私の顔を覗き込むようにして言った。


「何だか、元気になったみたいだね?」

「うん、まあね。先生とちょっと話したら、すっきりしたというか」

「そうなんだ。よかったね」


 佳くんが柔らかく微笑む。
 私は軽くなった気分で唐揚げを口へ運んだ。


「螢ちゃん、いい場所を見つけたよね」


 私は先生と話した場所を動かなかった。
 ここは木陰になっていて過ごしやすかったからだ。


「コンクリートだからちょっとお尻が痛いけどね。ごめんね、芝生まで行けばよかったよね」

「平気だよ。ちょっとだし」


 僕も、と言いながら、佳くんは唐揚げに手を伸ばす。


「佳くん、あのさ……、」

「うん?」


 先ほどから、胸がうずうずと落ち着かないでいた。


 この人だ。この人しか、居ない。


 私は思いきって、もう何年も、ずっと胸にしまっておいた言葉を口にした。


「私に、……演劇の基礎を教えてくれないかな」


 何となく彼の瞳を直視できなくて、少しだけ顔を俯ける。


「君に、演劇を?」

「……うん、駄目かな」


 そろりと視線を向けてみる。


「いいよ! うん! 僕でよかったら、喜んで!」



 どきりと鼓動が高鳴った。


 この人は、なんて眩しい笑顔をするんだろう。


 私の一言が、演劇という言葉が、こんなにも彼の表情を変えさせるなんて。


「ありがとう。私も、大好きなんだ、演劇が。佳くんに負けないくらいに」

「ミュージカルに憧れてたんだっけ?」

「そう」


 私は、富田先生と親友の愛実にしか打ち明けていなかった夢と、初めてミュージカルを観に行った時のことを彼に話した。