その他の骨折箇所を含めたリハビリと療養期間を終えた僕は、今年の後期から2年生としてまた復学することになっていて。

今日サークルに顔を出したのは、その挨拶のためだった。



「バスケは?やれた?」

「いや、どうせ出来ないし、ちょっとだけ見て帰ったよ」



事故の時に靭帯も損傷していたため、普通に歩くことは可能でも、走ったり過度な運動をしたりするのはは極力避けるよう、医師から口を酸っぱくして言われていた。


走ることが出来ないなら、飛べない鳥と同じだ。

ボールを掴むことが出来ないなら、翅はあってないようなものだ。


僕はもう一生、バスケをするつもりはない。



「…そっか」



僕の気持ちに気づいたのだろう、まるで自分のことのように気を落とす恋人の頬に、右手を添える。うまく力の入らない親指でさらりと撫でれば、彼女は気持ち良さそうに瞳を閉じた。

そのまま頭の後ろに手を回して、額を寄せて。

啄むように、キスをした。



「紫苑(しおん)」

「んー?」

「大好き」

「知ってるよ」



紅い唇から、白い歯が覗く。その笑顔がやけに煽情的で、僕は人の目がないのを良いことに、紫苑をベンチに押し倒して、また唇を重ねた。

木洩れ日が透けて眩しそうにまぶたを細める姿がとても愛おしくて、このまま時が止まればいいのに、と。


心の底からそう願った。