繋がっていないほうの手が私の目元に触れた。優しく指が涙を絡め取る。

四十四日後、命日を迎えたとき、私が消え、もしかしたらここにいたことも無かったことになるかもしれない。

ここは一種のパラレルワールドで、私が勝手につくりだした世界かもしれない。なにが起きているのか、誰にも説明できない時間軸にいるのだから、なにが起きてもおかしくない。

だから、もしかしたら、隼人くんの中の想いは、四十四日後には私の存在と記憶と同時に無いものになってしまうかもしれない。

それでも確かにここに、私たちが恋に落ちたことをどうにかして刻みたい。繋ぎとめたい。

「ゆり、好きだ」
「私も……」

恋をカタチにする方法など、知らない。あるのかも、定かではない。
私たちはお互いの額をくっつけあい、涙した。
幸せを噛み締めて、繋いだ手に力がこもる。

……忘れない。私は絶対に忘れないよ。

生きてきたなかで、間違いなく最高の瞬間。毎秒ごとに幸福度が上昇する。
繋いだ手を、気持ちを離さないと、お互いに手を握りなおす。
そして家路についた。

私は与えられたこの時間、自分のためだけに生きてもいい時間なのだと、改めて実感した。
不幸だったぶん、幸せになっていいものなのだと信じて疑っていなかったんだ。