白いTシャツに黒のベスト。
あとジーパンというナチュラルな格好。後ろには大きなリュックを背負っている。手品に使う道具などが入っているんだろうなと、容易に想像ついた。

隼人くんの笑顔を見ると、落ち着く。ドキドキは半端ないけれど、それ以上の安心感。心がときめいているのがわかるのだ。

恋って、一瞬で落ちてしまうものなんだ。
だって出会ってまだ五日だよ?
好きだと認めたときから、ずっと、好きが溢れてくる。
どうせ好きになっても、私はもうすぐ消えてしまうのに……。叶わない恋なのに……。

そう思うけど、好きになってしまったものは、もうどうしようもないのだ。

死ぬ前に、恋ができた。
それだけでもいい。この恋は、事故みたいなもの。

だって自殺しなければ、ここに飛ばされてくることもなかったし、隼人くんと出会わなかったのだから。普通じゃありえない。まぎれもない奇跡。
一昨日も乗った電車に乗った。ふたりで肩を並べて座る。

「ちょっと時間かかるけど、大丈夫?酔ったりする人?」
「ううん、平気だよ」
「そっか。ならよかった」

どこまで配慮が行き届く人なのだろうか。底知れない優しさに、感動すらする。

ああ、本当に、出会えてよかった。初恋の相手が、隼人くんで本当によかった。
ここまでいい人だと、そう思えてならない。

景色が移ろいでいく。昨日楽しみすぎてあまり寝られなかったから、瞼が重い。

「ゆり?眠たいの?」
「ううん、大丈夫」
「無理しなくていいよ。寝てていいから」