空いていた私の両手を、理香子ちゃんが掴む。

「帰ろう」
「……うん」
「それで帰りにクレープ食べよう」
「うん」
「あ、プリクラも撮っちゃう?」
「いいね、それ」

胸の中にじわじわと滲んでいくものがある。
なにかはわからない。カタチも、色も。ただ熱い。
それが血液にのって身体中を駆け巡っていくように、ゆっくりゆっくり表情に現れる。

……私は、笑った。

そして学校を後にした。帰りの道のり二時間は、心穏やかに過ごすことができた。

「ねぇ、理香子ちゃん」
「ん?」
「私、隼人くんのこと、好きになった……」
「えっ!ほんと⁉︎」

照れ臭くて、目線を泳がせた。
過去の自分に会ったら、余計にいま、自分がいる環境が幸せぎることに気づかされた。

いじめられない。行く時と同様、お菓子をわけて食べて、明日の授業について話して、さっき撮ったプリクラの激変したお互いの顔を見て笑ったり、他愛のないことで盛り上がる。そして、とある男の子に恋をした。

いままで無かった、世界のどこかではありふれた日常の一部。
いま過ぎている一秒は、既に生きてきた時間だ。これはきっと、死ぬまでにできたアディショナルタイム。

たとえこれが一ヶ月半後には、なかったことになるとしても、噛みしめるべき幸せなことには変わりはない。

美樹ちゃんはいなかった。
もしも私が美樹ちゃんの身体のなかにいる意味があるなら、私は精一杯頑張るから。

もう少しだけ、この身体にいさせてください。
私に恋を、青春を、させてください。