死んで、もう終わりにしたい。
生まれ変わって、いじめられない人生を送りたい。

いじめさえなければ、私にも将来への憧れはあった。友だちと思い出をつくったり、恋をして、結婚して、子どもを産んで……って。
やりたいことは、なにひとつ今の私では叶えられなかった。
じゃあもう死んで、来世にかけるしか希望はない。

体重をふっと前に傾ければ、私は、この世界からいなくなる。消える。一瞬で。
今ある未練に似たなにかも、どうしてこうなってしまったのかという悔しさに似たどうにもならない想いも、きっと。

私の中で、私の命と共に無くなる。
それなのに、今更現実に引き止めるかのように、いろんな感情が強く、心の中を入り乱れ続ける。これまで散々考えてきたことなのに、まだ考えてしまうらしい。

これから先、生きていけば、今の辛い状況を打破するような出来事が起こるかもしれない。そう考えてしまって、後ろ髪を引かれる。死なずとも、「今」を脱出する方法がどこかに無いのか、死のうとしているこの瞬間にも考えてしまうのだ。

けれどそのどれもを阻んできたのは、他人からの悪意だった。すべて、粉々にされた。生きていても、毎日いじめられながら学校に行っても、なにも変わらない。いじめは、終わらない。
耐えることも、限界だった。「やめて」という声も、届かなかった。

私にはもう心もない。未来もない。なにも、起きやしない。
もう私に残されたものは、傷以外なにもないのだ。

「…………」

座っていた鉄格子の上に立った。風が強く吹く。
私は目を開けたまま躊躇することなく、前方にゆっくり、体重を預けていった。
飛んだ瞬間、私は自由になったのだと確信した。これでもうあの人たちにいじめられることはないだろう。

心の中にあるいろんなものは、死んでしまえば跡形もなくなくなる。
誰にも、知られることなんてなく。
地面にたどり着いた瞬間の痛みを理解する間も無く、私は意識を手放した。