「ごめん、誰だっけ?」
「酷い!同じ小学校のかなこだって」


彼女はさらさらのセミロングの髪を触りながら言った。


「え、もしかして山本?」
「そう!」


正解!と言って笑った山本は持っていた鍵を俺に渡した。

すると丁度、電車がホームに到着した。


程よく混雑した電車に乗り込むと雲梯を遠くから掴むようにドア際の手すりをひょいと捕まえた。


「今日も学校?日曜日だよな」


隣に立つ山本に聞くと彼女は窓の外の景色から目を逸らさずに言った。


「うん、部活があんの」


山本の最初の勢いが何だったのか、久しぶりの再会にお互い探り合うような気まずさに耐えられず、俺は思いついたことを聴こうと決めた。


「なぁ、山本ってさ彼氏いんの?」
「え?どうしたの?急に」

山本は目をパチリと見開き視線を泳がせた。
焦ったように答えない山本に俺は、聞きたいことを先に聞くことに専念した。


「いや、変な意味じゃなくてさ、知りたいことがあってさ。無計画のデートって女子的になし?」

そう言うと山本はつり革の上にぶら下がっている広告に視線を落ち着かせた。


「人によると思うよ。私はそれでも全然アリだけど…。私に聞く前に彼女に聞かないの?」


「聞けねぇよ、そんなの」

俺は心の底からの深い溜息と共に困った声を出してしまった。

山本に世間話として軽く聞くだけで、こんな重たい会話をしたかったわけじゃない。

もっと他の盛り上がりそうな話も出来たのに、(例えば、この間6年生の時の担任だったカモセンに会った話とか、カモセンが昔よりも禿げてた話とか)


なのに、久しぶりの会話は俺の意図しない方向へと舵を切り、ふらふらと不明瞭な到達点を模索することになった。