「立て」
有無を言わさない口調に思わず身体が言うことを聞いてしまう。
俺が立ち上がると男は満足したように笑った。
「その代わりにお前には行ってほしいところがある。先に、行ってほしいんだ。」
「戻るとか先に行くとか、何の話ですか?」
俺は意味不明なことを言う男と話していることに不安を覚えはじめ、最初に話しかけられたときにベンチから立ち去らず、ほんの些細な好奇心を満たすためにこの男を観察したことを後悔した。
「いずれ分かる。さて時間だ。何でもいいから叫んでみろ」
男の有無を言わさない口調に戸惑いながらも、立ち上がると駅のホームに警告音が鳴り始め、貨物列車の轟音が近づいてきた。
「ほら!あの貨物列車に向かって叫ぶんだ」
それまでゆっくりと落ち着いた口調で話していた男が、貨物列車を左手で指差しまくし立てた。
「え?今ですか?」
振り返ると男はうなずいた。
「ここで?」
俺が地面を指さすと男はほうれい線にくっきりと皺を作って笑った。
「そんな、急に言われても、何を言えば?」
戸惑っている間にも貨物列車はどんどん近づいてきて、
「今のお前の気持ちだよ。ほら!叫ぶんだよ!早く!」
ゴォォォォォ!