「円!」
慌てて円を呼び止めると、
いつもの真顔で振り返った。
「宮…。」
「お前、どこ行こうとしてんだよ!」
最初なぜか寝てるんじゃないかと思った。
夢遊病みたいな。
でも起きてて、さらに怖くなった。
こんな夜中に町に出ようとしているのかと思ったから。
円に早歩きで近づき、腕を強く掴んだ。
「外の空気吸いたくて。」
「こんなに寒いのにか?バカかよ。」
「うるさい。」
俺の手はあっけなく振り払われ、
円は玄関とは逆の方に歩いていった。
いつもだったらムカつく状況だけど、
今日ばかりは安心感の方が強かった。
「寝れないのかよ。」
「うん。」
「そんなことだろうと思ったよ。」
そう言うと、円の顔が少し明るくなった。
さっきまで今にも崩れてしまいそうだったから、
俺も安心してつい口許が緩む。
ごまかすために咳払いをした。
「…部屋のやつは全員寝たのか?」
「うん、だから気分転換に。」
「修学旅行だし、一緒に寝るわけにもいかねぇしな。」
「そりゃね。」
円は淡々と返事をすると、
ロビーのソファに座った。
消灯されているので、小さな明かりだけが頼りだ。
俺も円のとなりに座った。