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春が
終わろうとしている。


桜が散りきった頃、
私はお母さんの一周忌を迎えていた。



お坊さんの読経が終わり、
親戚が静かに世間話をしている。

私とお父さんはキッチンで親戚に出す料理の準備をしていた。


「円、お前は休んでていいぞ。」
「いいよ。疲れてないし。」
「でも…」

不眠症が治ってから3ヶ月。
お父さんの心配性は相変わらずだ。

「お父さんこそ休んでて。
料理そんなに上手じゃないでしょ?
みんなと話してきなよ。」
「……
そうだな。ありがとう、行ってくるよ。」

お父さんは穏やかな笑顔を浮かべると、
親戚の方へ歩いていった。


窓から優しい風がそっと入ってくる。

なんだかお母さんが死んだなんて嘘みたいな感覚だ。
平和で、穏やかで、
嫌なことなんて何もなかったような…


でも…それは錯覚だ。

祭壇に置いてある黒縁の母の遺影を見るたびに、そう思い知らされる。


ボーッとしていると、叔母さんたちに声をかけられた。

「円ちゃん、料理大丈夫?手伝おうか?」
「あ、大丈夫!今持ってく。」

しっかりしなくちゃ…!

出来上がった料理を持っていこうとしたその時、さっきまで優しい春の匂いが入っていた窓の外から嗅ぎ慣れた大好きな匂いが香った。

「!!」

「ちょっと、円ちゃん?」
「円!?」

料理を再びキッチンに置き、慌てて玄関から外に出た。


「宮!!!」

「円」


私は大好きなその人のもとへ駆け寄った。


「相変わらず犬みてぇだな。
すぐ駆け寄ってきて。」
「うん。宮の匂いがしたから。」
「そんで相変わらず変態。」

宮は私の頭をポンポンと優しく撫でる。
今まで引っ込めていた涙が溢れそうになり、
慌てて唾と一緒に飲み込んだ。