「いや、ちがくて…ごめん!」

俺が言い訳をしても、教室の空気は変わらない。

ヤバい
ヤバいヤバいヤバい!

俺が苦労して築いてきた人間関係が…
生きやすい環境が…!


「宮くん…今の…素?」
「嘘でしょ?あの王子様が?」
「ていうかまた高山さんと一緒にいるよ…」
「やっぱり付き合ってるんじゃ…」

俺が隠そうとしていたいろんなことが
どんどん露になっていく。

焦って何も言えずにいると、俺のファンの立山さんが大きな声で言い放った。

「てか全然似合ってないし!
高山さんのせいで宮くんも迷惑してイライラしちゃってたんじゃない?」


「は…」


円を見ると、無表情のままだったけど、自分の手を強く握っていた。

『鈍くったって傷つくもんは傷つくだろ。』
昨日そう尋ねて、円は否定も肯定もしなかった。

傷つかないわけない。
母親の死の責任を感じて、半年間眠れないような優しいやつだ。
きっと誰よりも繊細だ。


築いてきた人間関係?
生きやすい環境?
なんだそれ。

俺は一回でも学校を生きやすいところだと感じたことあったか?
揺るぎない友情を感じた人間がいたか?


俺は…なんのために…


「おい、お前らな…」
反論しようとする徹を制した。



「黙れ。」



俺のいつもと違う声色と表情に教室はまた凍りつく。


「立山さん。円と俺が似合ってないって?」

「え……っ、そ、そうだよ!
どうして高山さんなんかと…」

「『高山さんなんか』?
お前、何様?」

「へ……」

「俺の彼女侮辱してんじゃねぇ。
次言ったら女でもぶん殴る。」


俺は円の手を握ると、そのまま教室の外へ引っ張っていった。