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「寒いね。」

円ははぁっと空に息を吐き、白くなって消えるのを目で追った。

「そうだな。」

駅への帰り道を円と並んで歩く。
手先が痛くなるほどの寒さだ。

「あっ、忘れてた。宮、これ返す。」
円はそう言って、袋を俺に手渡した。

「ああ、これ。」
中身は先週円に貸したマフラー。

「今日はちゃんとあったかくしてきたよ。
あと修学旅行の反省を活かしてバッチリ洗いました。」

円は無表情のままVサインをして見せた。

「珍しく普通のことしたな。」
「え?普通って…?」
「お前、異常。」
「えっ」

円は一歩俺から離れて、何かを思い出すように上を見上げて唸った。

「もしかしてまだおにぎりのこと言ってるの?」
「それもだけど、さっき誘ってきたときとか。」
「??」
「普通はみんなの前で誘うの恥ずかしいとか思うだろ。」
「…だって、宮が普通に誘えって!」
「あれは普通じゃねぇの。」

円は少しムッとすると、無言で会話を切り上げた。


「……っと…佐竹さんは?」

気を利かせてそう尋ねると、円は不機嫌顔のまま、俺の瞳を覗き込んだ。

「委員会。」

「そか…」

「……
私、そんなに変かな?
どうして前みたいに戻れないんだろ。
戻った方がいいんだよね?」

「いや、別に…」

否定しようとして躊躇した。

だって、普通でいるっていうのは、実際かなり重要だ。
目立たず、周りと同調して生きていくのが、結局一番いい。

でも…
俺は円の生き方に憧れている。

円のためを思ったら、『前の円』に戻った方がいいんだろうけど、
俺は『今の円』のそばにいたい。


「円がしたいようにすればいいよ。」
「……」


あー、普通の答え。
つまんね、俺。


円は黙ったまま俺の隣を歩き続けた。