バレンタインの翌週、月曜日ーー
朝の登校中。
「みぃやくん!」
呼び掛けと同時に手を捕まれ思わず振り払いそうになる。
「あ…おはよう、立山さん。」
「おはよう!ていうか、金曜日あのあとどこ行っちゃったの?
せっかく余ったチョコあげようと思ってたのに。」
そーいや、円を教室から引っ張り出す前、
立山さんになんか話しかけられてたっけ…
「ごめんごめん!
円と話したいっていう友達に協力してたんだよ。」
「そっか…
でも、もらってほしかったな。チョコ。」
余り物なんだから誰にやってもいいだろ。
俺にこだわってる時点で本命なのバレバレ。
「ホントごめん。食べたかったな~」
「またホワイトデーにでも作ってきてあげるよ!」
げ。
「…サンキュー!楽しみにしてる。」
「じゃあまたあとで!」と立山さんが走り去っていくと、
まもなく後ろから肩を叩かれた。
「腹ん中は何考えてんだか。」
「徹…。はよ。」
「おはよ。
『他の女子からのチョコなんか受け取れねぇ。
今、俺は身も心も円のものだから…』とか!?」
徹はそう言うと、ゲラゲラと笑った。
「は?別に円とはなんもねぇよ。」
「えっ!!バレンタイン、告白したりされたりしなかったのかよ!」
「ねえって。」
なんもないことはないけど…
徹には『好きになるな』の条件について話してねぇし、余計なこと言ってからかわれんのもだるいから、黙っとくか。
「チョコは?もらわなかったのか?」
「……ぶっ…」
「おい、なに吹いてんだよ。
何があったんだよ!!」
「いやっ…ちょっと…
てか、お前なんで円にチョコ渡してたんだよ。」
「友チョコだよ。
俺こういうイベント好きだし。
ついでに誰かさんに火でもつけようかと。」
「また余計なことしやがって。」
「見事着火したくせに。」
「してねぇわ。」
俺は図星をつかれるのが怖くて、
早歩きで会話を切り上げた。