「ほんと、恭介は贅沢者だよ。
チョコが殺到するくらいなら俺も経験あるけどさ、チョコの予約で女の子達が殺到するなんて聞いたことねえよ。」
「俺は全く嬉しくない。」
やっぱり宮は甘いもの好きじゃないんだろうか…。
「宮くん、本当に甘いもの苦手なの?」
結が私のもじもじにしびれを切らして聞いてくれた。
「どっちかっつーと。」
「そうなんだ…。」
これは、作戦早速失敗では…?結さん。
「でもお前、いっつも食ってんじゃん。
バレンタインのやつ。」
「え?」
平塚くんの言葉を思わず聞き返す。
「こいつね、毎年バレンタインはロッカーとか靴箱に鍵かけて、休み時間は逃走して、なるべくもらわないようにしてんだけどね。逃げ切れず手渡されたチョコはちゃんと食ってんの。
可愛いだろ?」
「へぇ…」
可愛い。
「だって、悪いだろ。食材に。」
宮は頭をがしがしと掻いて、フッとため息をついた。
「俺は女の子の気持ちより食材を大事にしてる恭介、大好きだぞ~!」
「キモい、やめろ。」
すがりつく平塚くんを一蹴すると、宮は立ち上がった。
「疲れたから、昼休み終わるまでどっかで寝てくる。」
「次移動教室だからな!」
平塚くんの言葉に振り返ったとき、一瞬目があったが、何も言わずに部屋を出ていってしまった。
せっかく初めて宮と一緒にお昼ごはん食べられたのに。
なんか…あんまり話せなかった。
と言うか、不眠症が治って放課後の添い寝がなくなってから、話す機会自体かなり減ってる。
「恭介は円ちゃんのチョコなら受け取ってくれると思うよ。」
「え…。」
顔を上げると、平塚くんがにっこりと笑っていた。
「そう…かな。」
「うん。一言アドバイスするなら、できるだけ甘くないものの方が喜ぶってことくらい。
まぁ激甘でも、恭介は喜んで食べると思うけどね。」
「アハハ…私、そんな特別じゃないよ。」
「どうかな。」
平塚くんはまたにっこり笑った。
平塚くんのこの人懐こさは素なんだろうな。
宮と違って…
きっと他人が好きなんだ。
まぁちょっといろんな女の子にいい顔しすぎだげどね。
私は平塚くんの言葉に少し安心し、宮にバレンタインを渡す決意をさらに固めた。