「私、いいのかな。
生きてても、眠っても。」

「もういっかい言う。思い出せ。
お前の母親はそんなことも許してくれない人なのか?」

「…」


『許すよ』なんて言わない。
きっと私を最初から責めてない。


『寝るな。』
ああ、違う。

これはお母さんの声じゃない。


ちゃんと、私の声だ。


『寝るな。起こせ。』

『お前の大切な人が
死んでしまうぞ』
って。


どうして…


「どうして気づかなかったんだろう…。」

私の頬を伝っていた涙が
温かいと気づいた。

「お母さんは責めたりしない。
私は…後悔してるんだ。
ちゃんと素直にお母さんにお礼を言えなかったことに。
もう一度、名前を呼んでほしかった。
眠らなければ、もう一度名前を呼んでくれたのかな。」


そうだ。
私は、ただ悲しかっただけなんだ…。

悲しくて、名前を呼んでほしくて、そばにいてほしくて、
忘れてまぎらわしてた。


「たとえ寝てても呼んでくれたよ、円。」

「宮…。」

悲しい。
会いたい。
謝りたい。
お礼を言いたい。

でも叶わない。


でも…
眠って起きて
精一杯生きていかなきゃいけない。


「さようなら、お母さん…!」


涙を流してそう叫ぶと、
宮が強く私を抱きしめた。

「円。」

宮が大切そうに私の名前を呼ぶ。

「宮。」

私も大切に宮の名前を呼ぶ。


ねぇ、お母さん。
私、手を取り合って『円』が作れる人になれたよ。
名前を呼びあって、抱き合って、涙を流せる大切な人ができたよ。


いつか会えたら、笑って喜んでくれるだろうか。

ひとまずは夢の中で。
その笑顔に会えますように。