俺は円と今夜二人きりになるべきじゃないと思っていた。
当然と言えば当然だ。
付き合ってもいない高校生男女がひとつ屋根の下。
円の父親に任された名目もあるし、普通に考えて誤解が生まれる状況だ。
それに今、俺の中で芽吹き始めた感情にきつく封をする必要がある。
俺は自分がそうしなければいけないことを自覚している。
なのに…
それなのに…
『夜に一人はやだ。』
『お願い…っ、怖いの…。』
まるで契約して初めて眠れたときのように、
静かに涙を落としている円が引っ掛かった。
"怖い"?
何が?
"眠れないこと"?
それはきっといつものことだ。
最近は良くなっているし。
じゃあ"家に夜一人でいること"?
今まできっと遅くなってでも父親が帰ってきていたからだろうか。
円でも珍しくお化けが怖いとか?
横で眠る円の顔をそっと覗く。
いつになく安らかな表情だ。
いくら考えても、円がなぜあんなに泣いていたのか結局分からずじまいだった。
でも俺の中には大きな違和感が残っていた。
円の不眠症を治すため、
添い寝を始めてから半年以上。
ケンカしたりして、時々悪化することはあっても、
概観では不眠症は改善してきている。
でも治らない。
友達との関係も良好、父親とも本心を話し合えて、
それでもまだ治らないのには何か重大な原因があるはずだ。
俺も円も気づいていない原因…。
それを明らかにしないと、きっと円の不眠症はいつまで経っても完治しない。