円の家に上がってから1時間ほどたった頃、
カチャン
という金属音で俺はその事実に気づいた。
音の原因は円がケーキを食べていたフォーク。
それが床に当たった音だった。
寝てる…。
ソファでアクション映画を二人並んで観ていたのに、円はいつの間にやら下を向いていた。
食べかけのケーキは机に置かれたまま。
俺はフォークをそっと拾った。
「円…?」
話しかけても起きる気配ゼロ。
花火大会や遊園地に一緒に行ったときも思ったけど、円は俺といると結構うるさい中でも平気で爆睡する。
今だって、近くのテレビから割と大きめの銃声と敵キャラの悲鳴が聞こえている。
よく寝れるよな…。
うるさいからこそ寝れるのかな。
次第に円の頭はゆらゆらと揺れ、
一定の角度になるとわずかに目を覚まし、
また眠り始める、という動作を繰り返し始めた。
さっき久々に泣いてたし、きっと疲れたんだろう。
円が目に見える感情を出すのは稀だ。
それだけで疲れるんだろうし、まずそこまで心を強く揺さぶられること自体が減ったんだろう。
そして、きっと円の感情に俺は深く関わっている。
それが嬉しくもあるし、時々どうすればいいかわからなくなる。
さっきも俺は…泣かれても帰ると言うべきだった。
それなのに…
「宮。」
「あ。」
睡眠と半覚醒を繰り返していた円が目を覚ました。
「眠いんだろ。
俺に寄りかかって寝るか?」
「いや…」
円は一度拒んだものの生理的欲求に負け、
俺の肩に頭を預けた。
「ちょっとだけ。
この映画終わるまで。」
「結構長いな(笑)」
「いい匂い。」
円は保健室や自習室にいるときのような穏やかな顔でそう言った。
前から言ってることなのに、俺は急に恥ずかしくなる。
「黙れ、変態。」
「ぬふふ…」
円は気持ち悪い笑い声を出すと、
そのまま眠りに入っていった。