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数時間後、待ちに待ったチャイムが鳴り、
その瞬間に俺はベッドから出た。


「おい、円起きろ。」
「んー…」
「下校時刻だ。」
「…。」

円は五月蝿そうに、寝返りを打った。


珍しい。
起こしてもこんなに起きないなんて。

それだけ深く寝れてるってことか…。

そんなとこ起こすのは申し訳ないけど、
先生が見回りに来たらただじゃ済まない。

俺は円の肩を強めに揺すった。


「起きろ。」

「ん~、宮…
宮、寝れた?」

いいや全く。
「寝れた寝れた。早く帰るぞ。」

円はむっくりと起き上がり、寝癖だらけの髪を軽くとかした。
ちなみに寝癖は全くとれていない。

「そっか、よかった。
私…久々に夢も見ずに寝てた。」

円は柔らかい笑顔で嬉しそうにそう言った。


一緒に寝るとかふざけんなって思ったけど、
円的にはかなり良い効果だったみたいだ。

まぁもう一度やるかって聞かれたら絶対NOだけどな。

こんな協力してやってるけど、
俺だって一応思春期男子だ。

"もう顔色も良くかなり美人と言えるクラスメイト"
"施錠した保健室"
"背中に感じる寝息"
"一緒の布団"

相変わらず強い円の攻撃に耐え続けるのはかなりキツい。


「宮も不眠症になったら毎日一緒に寝れるね。」

「俺はその方が不眠症になるよ。」

「え、なんで?」

俺は円の頭をポカッと叩くと、
円と俺の鞄2つを持ち上げた。

「お子ちゃまはわかんなくていんだよ。
快眠できた礼に駅までカバン持ってやるよ。」

「え、やった。」


俺たちは時間をずらして保健室をこそこそと出て、
いつものように下駄箱で再会した。


「寒。」
外に出ると円はそう言い、はーっと白い息を吐いた。

「宮、クリスマスなんか予定あんの?」
「ねぇよ。」
「ふーん。」
「何。お前はあんの?」
「ねぇよ。」
「あっそ。」


別に、だから一緒に過ごそうなんてなる仲じゃない。
けど、ほんの少し安堵した。

その『ほんの少しの安堵』は俺にとって初めての体験だった。

初めて体験したはずなのに、俺はこの気持ちの名前を知っている。

言えないけど、知っている。


「今夜は眠れそう。」

円が空を見上げて気持ち良さそうにそう呟いた。

俺も空を見上げると、小さく漏れたため息が冷たい空に霧散した。