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放課後ーー

円と話さない日中はひどく長く感じる。
周りに合わせていい子ぶった会話をするのも、
かなりの負担になってるのだろう。

そんなこと、今まで気づきもしなかったのに。
円と一緒にいる心地よさを知ってしまったからだ。


約束していた保健室の前にたどり着くと、
ようやく俺の肩の荷が下りる気分だ。


保健室の扉には『外出中』の札がかかっており、
覗き窓の中は暗かった。

冷たいドアノブに手をかけると、簡単に扉は開いた。


外から入る日光だけが足元を照らしている。

奥まで入ると、大きな窓から十分な光が入っていて割と明るかった。

俺の気配に気がつき、ベッド脇に座る人が顔を上げた。
光に顔を照らされ、眩しそうに目を細める。

「円。」
「宮。」

朝と同じように円は穏やかな笑顔を俺に向けた。


「ごめんね。テスト前なのに。」

「いいよ、勉強なんてどこでもできる。」

円はよいしょとベッドの上に乗った。

「えへへ…やっぱりベッドは気持ちいいな。」

「そりゃよかった。」

「宮の家はベッド?布団?」

「布団だよ。」

「へぇ~、意外!絶対洋風だと思った。
王子様だし。」

「偏見だ。」

「フフッ…」

円は口許を緩めて少し笑うと、ベッドに横になり、
フカフカそうな掛け布団を抱きしめた。

気持ち良さそうに目を閉じる円を見て、
俺にも眠気が襲う。

「宮、おやすみ。」
「おやすみ…ふぁ…」

俺の噛み殺せなかったあくびを聞くと、
円は閉じていた目を大きく開けた。

「どうした?」

「宮、眠いの?」

「ん、まぁ。
最近遅くまで起きてんのに朝も勉強してるからな。」

「…。」

円は真顔のまま俺を凝視して、何か考えている様子。

カーテンで囲まれた空間。
さすがに凝視されると照れ…「一緒に寝る?」





「はぁ?」


円のとんでもない爆弾発言に、俺は王子様なんておろか、ヤンキーみたいな声を出した。