「昔の私にはもう戻れないけど、今の私で少しでも前を向いて、みんなに恩返しできたらいいと思ったの。」

「そっか。」

宮はまたにゃん太に視線を戻した。


ちがう。
私は前を向きたいんじゃない。
後ろを振り向きたくないんだ。

「にゃん太、面白い?宮。」
「ん、まぁまぁ。」

『まぁまぁ』か。
宮の『まぁまぁ』なら及第点だ。

私は少し深呼吸をして、後ろを振り返った。
暗闇の中、元の位置に戻っていく人形の影が見える。

私はその光景に恐怖を感じた。

何か…
私は何か大事なことを見落としていないだろうか。

血の気が引いていく。
これは約束を破って宮を好きになった罰?


「円、ちょっと寝るか?」
「え…」

宮は私の前髪を左右に掻き分け、
「顔色悪い」と言った。

「いいの…?」
「ああ。肩でも膝でも貸してやるよ。」

宮のどや顔を見て、私は後ろを見るために捻っていた体を前に向けた。


日に日に心に広がる違和感に今は目をつむる。
もう少しあとで向き合うから…

宮の肩に自分の重たい頭を預ける。

「膝に横になっていいぞ。」
「いや…。」
「倒れられたらこっちが面倒なんだよ。」

宮は半ば強引に私の頭を自分の膝に押し付けた。