倒れて一週間後、円は学校に戻ってきた。


「おはよ。」


いつものように朝一番に学校に来て、
登校してくるクラスメイトを迎える円。
その姿に疑問を持つ人間はいなかった。

入院していたことも公表されていなかったから、
円が倒れたところを見ていないやつらはただの風邪だと思っているようだ。

倒れたところを見た生徒もほとんどおらず、
その数少ない生徒には、円の希望で先生が口止めをしたらしい。


「宮!」

「円…久しぶり。」

「そんなことないよ。」


よくお見舞いに来てくれたじゃないかと、
円は嬉しそうに笑った。

そんな円の笑顔を見て、俺は視線をそらす。

だって純粋に円を慮って行っていただけじゃない。
しょうもない意地で円に我慢をさせた償いのためでもあった。

だから、お礼を言われると罪悪感が広がった。


「ね、ねぇ。宮?」

「何。」

「あのさ…入院中も言ってたけどさ。
これからも協力してほしいんだ。」

「ああ。」

「契約じゃなくて協力。
だから、気が乗らない日はやんなくていい。」

「分かってるよ。
今日もやるだろ?」

「うん…!」


円は口角を少し震わせた。
笑ってるのか、嬉し泣きか。

笑顔を見せる機会が増えてきたと言っても、
やっぱりこいつの傷は相当深い。

表情の変化も他の人間と比べたら微かなものだ。
それでも、喜怒哀楽くらいは基本的に分かるようになった。

一応『友達』というものではあるから、
最低限の理解はできている自信がある。


「…『友達』ねぇ。」

「ん?なんか言った?宮。」

「いや。」


修学旅行の夜の気持ちを思い出して、
口を固く結んだ。

俺は未だに『友達』というワードがしっくり来ない。
円の前でそんなこと、口が避けても言えないけど。

余計なこと言って、また円を傷つけるのだけは
避けたい。

自分の中にある違和感に蓋をして、
俺は機嫌の良い円の頭をグシャグシャにした。