「いや、い、いないし…」
「じゃあ、俺のことも嗅いでみてよ。」
じりじりと円に近づく徹。
後ずさる瞬間、円の肩に乗っていた髪が
するりと肩をすべって落ちた。
「徹。」
思わず俺が呼ぶと、徹は「何?」と満面の笑顔で
俺の方を見た。
しまった。これが焚き付ける、ってやつか…
後悔しても後の祭り。
徹はすんなりと円との距離を離した。
だから違うっつってんのに。
「大富豪、お前の番だよ。」
「あ~、そうだな!ごめんごめん。」
「いや…」
そのあとはすぐにみんなの中にもとの楽しい空気が流れ、特に俺の行動を怪しむやつもいなかった。
「宮。」
0時を回ろうとしていた頃、
円がそっと俺に話しかけた。
「ありがと。」
「何が?」
「また助けてくれて。」
「……。」
「はい、円ちゃん大貧民!」
その時、同室の男がそう言った。
は…?
何急に名前で呼んでんだよ。
「えっ、あれ。みんな上がり?」
「そう。円ちゃん、罰ゲームとして
次の大貧民とジュース買ってきてね。」
「う、うん…。」
今の貧民お前なんだから、
お前が次行く可能性高いじゃねぇか。
ここぞとばかりに何急にそんなルール作ってんだよ。
うぜえ。うぜえ。うぜえ。
髪整えただけだぞ。
顔色ちょっといいだけだぞ。
そんな急に意識し始めてんじゃねぇよ。
どいつもこいつも…
俺も…