家に帰る途中、満開に咲いた桜の木がちらほらと顔を覗かせた。

桜の花びらが夜風とともになびき、服の袖に付着する。
夜風が少し肌寒い―――。
私は前から桜のことを"恋の色"と愛称をつけている。

理由は、桜を見る度に恋をしてる気持ちと同じくらい、幸せな気分にさせてくれるから。

桜の木を見つけると心が勝手に動き、自然と目を奪われる。


「綺麗だなぁ。」


私はふと桜の木の前で足を止め、思わず口に出して呟く。

声に出しても周りには人がいない。
こんなに綺麗な桜の木を独占出来るなんて、何だか特別な気持ちになる。

この近くにライトアップされている邸宅もあり、そこの桜は格別に美しい。

ギャラリー用の観覧スペースを設け、度々メディアに登場したこともある。

さすがお金持ち！考え方が全く違う。
でも私はお金持ちより、平凡な暮らしの方が好き。



そんなことを考えながら、私はまたゆっくり歩き始めた。