仕事終わりに沙智が、怖い顔をしながら私に話しかけてきた。

まるで、これから怪談話でもするかのように、いつもと違う表情を浮かべる。


「そんな怖い顔してどうしたの?」


沙智につられて私の表情がひきつる。


「知ってますか?最近この辺りで不審者が出るみたいなんです…
どうやら、一人で夜道を歩く女性ばかり狙ってるみたいで

亜衣さんもたまに歩いて帰ってますよね?」


私は全く運動しないので、健康のことも考え、たまに歩いて行くようにしている。

歩く機会が増えるにつれ、歩くこと自体が好きになり、むしろ歩きたい気持ちで溢れた。


「確かに最近多いよねー
なんかあったら走ればいいかなって、そんな軽い気持ちしかなかった…
彼氏でもいたらまた違ったのかなぁ。」


自分を守るために、護身術を覚えたいと思いつつも、中々行動に移せない自分がいる。

こういう時こそ真っ先に思い浮かぶのが、どうして私はこんなにマイペースなんだろうか。

ダメなところばかりではないと分かっていても、過ぎ去った後に後悔するばかりの人生だったから、その教訓から学べない自分が悔しい。


だから、他の人を見ていると羨ましいなーって思うし、逆に自分と似た境遇の人を見つけると安心する。


「亜衣さんって真面目そうに見えるけど、若干抜けてるとこもありますよね。
自分の身は自分で守るべきです!」


「そうだよね!沙智、ありがとう!
これから帰りが遅くなる時は、自転車で来るようにするね。」


「そうですよー!
私、亜衣さんのこと大好きだから、亜衣さんに何かあったら心配しちゃいます…。」


沙智が少し涙目になりながら、私に抱きついてきた。


沙智とは4つ歳の離れた妹みたいな存在。

私も慕ってくれる沙智が大好き。


一通り沙智と会話した後、私は帰路を急いだ。