休憩も終わり、午後の仕事が始まる。

道内でも桜の開花がニュースで流れ、町がお花見客で賑やかになる。
例年より開花が5日遅いらしい。

お花見は私にとって憧れのイベント。

いつか好きな人と行きたいって、ずっと思い描いていたけど、今年も無理そうな予感…。

いつか、いつかって先延ばしにしていたら、あっという間に三十路が目前。

実現しなくちゃ!来年こそは絶対に!



「いらっしゃいませー
お預かりいたします」


いつも通り笑顔を忘れずに接客。
お客さんに″ありがとう″と言われると、すごく心が晴れる。

言葉一つで時には傷ついたり、好きな人と話す時は、魔法にかかったみたいに気分が弾んだり…

不思議なことの方が多い。


「いらっしゃいませ
あっ!こんばんは…」


午後六時を過ぎた頃、あのお客さんがレジにやって来た。


「こんばんは!今日お店混みましたか?」


「そんなに混んでないですよ!」


名前や年齢も知らない彼。
顔を見る度に胸がドキドキする。

アナウンサーにいるような、透き通った優しい声で私に話しかける。

ヘアアレンジされていない短髪に、黒いジャンパー。そしてジーパン。
20代前半くらいの、笑顔がよく似合う普通の男性。


「あの…」


「はい」


「あ、ごめんなさい
何でもないです」


後ろにお客さんが並び始め、言いかけた所で言葉を濁した。
本当はもっと彼のことが知りたいのに、中々上手くいかない。



私はまだこの時知らなかった。
彼が隠している本当の正体を…。

どうしていつもタイミングよく現れるのか。
どうして彼はいつも私のレジに並ぶのか。




まるで、誰かに監視でもされてるかのよう・・・。