中々戻って来ない翼。
さすがに遅いから、何かあったのではないかと心配になった。
「ごめん!お待たせ」
「お腹でも痛いの?もしかして、食べ過ぎ?」
「違うよ。手出して」
後ろで手を組んでいた翼が、そっと前に戻し、手の平をゆっくりと広げた。
手の平の上に、お花で作ったであろう指輪が乗っている。
私は翼に右手を差し出す。
「これって、翼が作ったの?」
「今さっき作ってきたんだ。サイズ合うか分かんないけど」
お花の指輪を、翼が私の右手薬指にはめてくれた。
サイズも大きすぎず丁度いい。
ピンクと白の二色が混ざっていて、可愛らしい。
「ぴったりだね。
すごく可愛い!」
空に向かって、右手をかざす。
お花の指輪が太陽の陽に当たり、光って見えた。
「ごめん………
本当は、もっとちゃんとした物を渡したかった。
でも今お金がなくて」
「これで十分だよ。
お金に余裕ができたら、その時は本物をプレゼントして!」
「もしもだよ?もし俺が、亜衣のこと好きじゃないって言ったらどうする?」
高校生の頃は、私の中ではまだ幼くて、好きでもない人と付き合ったこともあった。
好きじゃないから上手くいかず、すぐに別れた。
別れた後も、彼から頻繁に連絡が来ていて、私はその連絡を無視する。
ある日、彼が家の近くで待ち伏せしてるのを見かける。
彼も私のことを好きじゃないはずなのに…。
ただ告白されたから、一緒にいるだけだと思っていたのに…。
それは私の思い過ごしだった。
私に告白されたその日に、彼はノリで付き合うとかではなく、真面目に考えて答えを出してくれたこと。
彼は、私の真っ直ぐさ、そして笑顔に心惹かれたらしい。
別れた後になって、その人の良いところをたくさん知って、改めてこれが恋だったんだって、気づかされた。
けれど、時はすでに遅かった…。
それをきっかけに、私は焦るようになる。
もう恋愛で後悔したくないって、強くそう思ったから。
だから今翼に聞かれて、″もしも″の例え話だって言っていたけど、高校生の頃の自分を見ているかのようで、つい重ねてしまう。
「それ、本気で言ってるの?」
「もしもの話だけどさ、その辺どうなのかなって…」
「例え翼が私のことを好きじゃなくても、私は翼が好きだから、ずっと傍にいるよ。」
「俺も亜衣が好き。だから死ぬまで一緒だよ。永遠に………」
翼が口角を上げ、微笑んだ。
笑顔が本当によく似合う人。
これはきっと、結婚式でする誓いなのかもしれない。
「それならもう私に嘘つかないで?」
「なんで?時にはアイの嘘をつかないと、幸せになれないんだよ。」
「アイの嘘?」
「その人が好きだから、その人の為を思ってつく嘘。
それを俺は、アイとウソって呼んでる」
「じゃあ、私がウイスキーと見せかけて飲んでるのが、ウーロン茶だって知ってた?」
翼が笑えば私も笑う。
翼が泣けば私も悲しくなる。
長年寄り添っていれば、その夫婦は似るって言うけど、本当なのかな?
私と翼はどうだろう。
「それは知らない。
じゃあ、本当は俺、唐揚げ苦手だけど、亜衣の大好物だから食べてるのは知ってる?」
翼、唐揚げ苦手だったんだ。
今日のは肉じゃなくて、実は厚揚げだったんだよ。
「全然知らなかった!だって、さっきもパクパク食べてたし」
「それは、亜衣が一緒懸命作ってくれたから」
誉め上手な翼の顔を見上げる。
翼ってこんな顔をしてるんだ。
こんな風に笑うんだ。
あまりじっくり見たことがなかったから、改めて見ると新鮮。
恥ずかしい時に、頭を掻く癖を私は知ってる。
「翼、私…翼に出会えてよかった」
「俺も亜衣に出会えてよかった。
そういえば…何で俺が栗山沙智に、恋人の振りをするように言ったと思う?」
「それはアイの嘘だから?」
「違うよ
俺が亜衣の後をつけていたからだよ。
そこを栗山沙智に見られてた
亜衣は俺が後をつけていても、天然だからなのか、気づかなかったけどね
だから俺は栗山を脅した。
どうしても、亜衣と一緒になりたかったし、俺のために嫉妬してほしかったから。
それがようやく叶って嬉しいよ」
翼が私の後をつけていたなんて、全然気づかなかった。
その話を聞き、私だったから良かったけど、本当に翼が犯罪者になるんじゃないかと、想像するだけでも怖い。
「バカっ………翼のバカ
私はそんなことされなくても、翼のこと好きになってた
なのに、どうして……」
「ごめん………本当にごめん」
翼の目に涙が浮かぶ。
頬に流れ落ちる涙を手で拭く翼。
私はカバンからハンカチを取り出し、それを差し出す。
「もう終わったことだし
気にしなくていいよ」
「そう?ならもう気にしなーい。」
さっきの悲しい表情とは打って変わって、涙が晴れていた。
嘘泣きだ―――。
私はまた翼の名演技に騙された。
こんなの、アイとウソなんかじゃない。
まだ翼は、私に言えない何かを隠している。
私はこれからも、翼のアイとウソに付き合わないといけない。
いつかきっと、この関係も壊れるかもしれない。
でも私は翼が好きだから、一緒についていくよ。
一緒のお墓に入るまではね。
翼…ずっと一緒だよ。
私はニヤッと笑った。
翼には絶対バレていないはず…。
ヒソヒソと企んでる私の計画を―――。
翼は私の不気味な笑みに、気づくことはないだろう。
*~Fin~*
さすがに遅いから、何かあったのではないかと心配になった。
「ごめん!お待たせ」
「お腹でも痛いの?もしかして、食べ過ぎ?」
「違うよ。手出して」
後ろで手を組んでいた翼が、そっと前に戻し、手の平をゆっくりと広げた。
手の平の上に、お花で作ったであろう指輪が乗っている。
私は翼に右手を差し出す。
「これって、翼が作ったの?」
「今さっき作ってきたんだ。サイズ合うか分かんないけど」
お花の指輪を、翼が私の右手薬指にはめてくれた。
サイズも大きすぎず丁度いい。
ピンクと白の二色が混ざっていて、可愛らしい。
「ぴったりだね。
すごく可愛い!」
空に向かって、右手をかざす。
お花の指輪が太陽の陽に当たり、光って見えた。
「ごめん………
本当は、もっとちゃんとした物を渡したかった。
でも今お金がなくて」
「これで十分だよ。
お金に余裕ができたら、その時は本物をプレゼントして!」
「もしもだよ?もし俺が、亜衣のこと好きじゃないって言ったらどうする?」
高校生の頃は、私の中ではまだ幼くて、好きでもない人と付き合ったこともあった。
好きじゃないから上手くいかず、すぐに別れた。
別れた後も、彼から頻繁に連絡が来ていて、私はその連絡を無視する。
ある日、彼が家の近くで待ち伏せしてるのを見かける。
彼も私のことを好きじゃないはずなのに…。
ただ告白されたから、一緒にいるだけだと思っていたのに…。
それは私の思い過ごしだった。
私に告白されたその日に、彼はノリで付き合うとかではなく、真面目に考えて答えを出してくれたこと。
彼は、私の真っ直ぐさ、そして笑顔に心惹かれたらしい。
別れた後になって、その人の良いところをたくさん知って、改めてこれが恋だったんだって、気づかされた。
けれど、時はすでに遅かった…。
それをきっかけに、私は焦るようになる。
もう恋愛で後悔したくないって、強くそう思ったから。
だから今翼に聞かれて、″もしも″の例え話だって言っていたけど、高校生の頃の自分を見ているかのようで、つい重ねてしまう。
「それ、本気で言ってるの?」
「もしもの話だけどさ、その辺どうなのかなって…」
「例え翼が私のことを好きじゃなくても、私は翼が好きだから、ずっと傍にいるよ。」
「俺も亜衣が好き。だから死ぬまで一緒だよ。永遠に………」
翼が口角を上げ、微笑んだ。
笑顔が本当によく似合う人。
これはきっと、結婚式でする誓いなのかもしれない。
「それならもう私に嘘つかないで?」
「なんで?時にはアイの嘘をつかないと、幸せになれないんだよ。」
「アイの嘘?」
「その人が好きだから、その人の為を思ってつく嘘。
それを俺は、アイとウソって呼んでる」
「じゃあ、私がウイスキーと見せかけて飲んでるのが、ウーロン茶だって知ってた?」
翼が笑えば私も笑う。
翼が泣けば私も悲しくなる。
長年寄り添っていれば、その夫婦は似るって言うけど、本当なのかな?
私と翼はどうだろう。
「それは知らない。
じゃあ、本当は俺、唐揚げ苦手だけど、亜衣の大好物だから食べてるのは知ってる?」
翼、唐揚げ苦手だったんだ。
今日のは肉じゃなくて、実は厚揚げだったんだよ。
「全然知らなかった!だって、さっきもパクパク食べてたし」
「それは、亜衣が一緒懸命作ってくれたから」
誉め上手な翼の顔を見上げる。
翼ってこんな顔をしてるんだ。
こんな風に笑うんだ。
あまりじっくり見たことがなかったから、改めて見ると新鮮。
恥ずかしい時に、頭を掻く癖を私は知ってる。
「翼、私…翼に出会えてよかった」
「俺も亜衣に出会えてよかった。
そういえば…何で俺が栗山沙智に、恋人の振りをするように言ったと思う?」
「それはアイの嘘だから?」
「違うよ
俺が亜衣の後をつけていたからだよ。
そこを栗山沙智に見られてた
亜衣は俺が後をつけていても、天然だからなのか、気づかなかったけどね
だから俺は栗山を脅した。
どうしても、亜衣と一緒になりたかったし、俺のために嫉妬してほしかったから。
それがようやく叶って嬉しいよ」
翼が私の後をつけていたなんて、全然気づかなかった。
その話を聞き、私だったから良かったけど、本当に翼が犯罪者になるんじゃないかと、想像するだけでも怖い。
「バカっ………翼のバカ
私はそんなことされなくても、翼のこと好きになってた
なのに、どうして……」
「ごめん………本当にごめん」
翼の目に涙が浮かぶ。
頬に流れ落ちる涙を手で拭く翼。
私はカバンからハンカチを取り出し、それを差し出す。
「もう終わったことだし
気にしなくていいよ」
「そう?ならもう気にしなーい。」
さっきの悲しい表情とは打って変わって、涙が晴れていた。
嘘泣きだ―――。
私はまた翼の名演技に騙された。
こんなの、アイとウソなんかじゃない。
まだ翼は、私に言えない何かを隠している。
私はこれからも、翼のアイとウソに付き合わないといけない。
いつかきっと、この関係も壊れるかもしれない。
でも私は翼が好きだから、一緒についていくよ。
一緒のお墓に入るまではね。
翼…ずっと一緒だよ。
私はニヤッと笑った。
翼には絶対バレていないはず…。
ヒソヒソと企んでる私の計画を―――。
翼は私の不気味な笑みに、気づくことはないだろう。
*~Fin~*