「お疲れ様!」


控え室に戻ると、先に来ていた両親の姿がある。


「翼がいたの。でももういなかった…」


「実はな、亜衣に会わせたい人がいるんだ
入っていいぞ」


お父さんが私に会わせたい人?
一体どんな人だろう。


控え室に入って来た人を見た瞬間、私は思わず走り出した。


「翼ー」


私は名前を呼び、すぐさま抱きついた。


「翼、今まで何してたの?すごく会いたかった
でもなんで?」


翼の腕を見ると、水色と青色が混ざったミサンガを付けている。
ゆっくりと口を開く翼。


「ごめん………
ずっと俺嘘ついてた」


「嘘ってなに?」


「俺が捕まったニュース、テレビで見た?
あれ、嘘なんだよね。」


「なにそれ…ここまできてまた嘘つくの?」


怒りが込み上げ、翼の頬をビンタした。
ビンタされた頬を押さえ、私に訴えかける。


「何すんだよ!だから俺は捕まってないし、犯罪者でもない」


「嘘つき!本当に呆れたわ」


「あきらさん、話が全然違うじゃないですか!」


翼がお父さんに助けを求めた。
今まであった出来事が、まるで計画通りみたいな発言。


「お父さん…?どういう意味?
ちゃんと説明して」


「翼くんが亜衣を好きなのは事実だ
会えない日も一生懸命勉強してたのを、お父さんは知っている
翼くんは弁護士になる夢があった
でもなかなかそれを、実現することができなかったんだよ。
その時に娘のことが好きだと告白された
いくら恩人だとはいえ、さすがに無職の男に、大切な娘を渡すわけにはいかない

だから賭けをしたんだよ」


お父さんの話に耳を傾ける。
そうだったんだ。翼にもちゃんと夢があったんだね。

夢があっただけでも私は嬉しい。


「何の賭けをしたの?」


「翼くんが弁護士になったら、娘と付き合っていい
なれなかったら、娘の前から去ってほしいと………
まさかこんな偶然があるとはな」


私もこの偶然には驚きを隠せない。
これもきっと、出会う運命だったのかも。


「亜衣のお父さんは、俺のためを思って言ってくれたんだよ。
頑張る目標があったから俺は頑張れた

まだ見習い弁護士だけどな」


「じゃあ、あのニュースは?
テレビに映ってたじゃん」


「あぁ…あれ作るのかなり苦労したんだぜ」


「えっ!作ったの?」


あの時は本物だと思って、ずっと信じていた。
ニュースを本格的に作っていたとは、耳を疑うような話。


「今はネット社会なんだし、ハッカーとかのプロだと、あんなの簡単に作れる
よくあるじゃん?防犯カメラの映像を変えたりとかさ、簡単にデーターを書き換えて改ざんしたり………
やってないのにやったとか決めつけられて。
だからそういう人達を助けるために、俺は弁護士になった
俺が犯罪者だと亜衣に思い込ませるため、皆に協力してもらったんだ。」  


道理で辻褄が合うと妙に納得した。
そっか。皆に協力してもらってたんだ…。

弁護士になる経緯を聞いて、私は翼が誇らしく思う。


私は、人を笑顔にしたいから歌手になった。
翼は、人を助けるためにまだ見習いだけど、弁護士になった。



二人とも思うことが似ていて、つい吹き出してしまう。


「なに笑ってんだよ」


「いや、なんか私達似てるなーって」


「人が大事な話してるのに」


拗ねたように、翼がそっぽを向いた。
2年の間にできた溝を、徐々に埋めないといけない。


「翼カッコいいよ!私も夢を叶えようとしている人、すごく尊敬してる。

夢を持つって素晴らしいことだね」


「あのさ………話変わるけど、その
亜衣って彼氏とかいるの?
ほら、会わないうちに妙に大人っぽくなったし」


「なにそれー
今までが子供だったみたいな言い方」


「だから可愛いから、ちゃんと見ていなかったというか………
いつもお客さんとして会ってたし」


「ただの言いわけじゃん」


照れているのか、翼の頬が赤く染まる。
翼と目が合いそうになり、私は視線を逸らした。


ヤバい。今ものすごくドキドキしてる。
なんでこんなにドキドキするの。

翼の言う通り、私達また一段と大人になってるよね?
翼が私の目に今カッコよく映ってる。


「彼氏ね、いるよ
実はあの後、彼氏できたんだよね。」


「そっか………」


やけに声のトーンが小さくなる。
翼が嘘をつくから、仕返しのつもりで言ったのに、やっぱり言わない方がよかったかな?


「翼は?彼女とかいるの?」


翼にだって彼女くらいできるよね。
二年も会ってなかったし、その間にきっと、翼の気持ちだって変わるよね。


「俺はいない。毎日勉強してたし、そんな余裕なかったから」


「じゃあ、好きな人は?」


「そりゃいるさ
俺にとってずっと忘れられない人」


「その腕に付けてるミサンガって、もしかして私とお揃い?」


「うん!まさか、付けてくれているとは思ってなくて…
もう捨ててると思ってた」


「だって翼がくれたんだよ?
好きな人からもらった物、そんな簡単に捨てられないよ。」


「今なんて言った?好きななんとかって」


「だから好きだっていってるじゃん」


翼が驚いた顔をして私を見る。
″好き″だって言った瞬間、耳まで真っ赤にして可愛い。


「えっ?彼氏は?
二股とか俺、絶対嫌だよ」


どうやら私に彼氏がいるって、信じてるみたい。
私も諦めようと思った日もあった。
でも、翼がくれたミサンガを見る度に、頑張ろうって思えたし、付けていればまた翼に会えるって、心のどこかでずっと願っていた。


すごいね。翼のくれたミサンガ。
幸運を呼ぶミサンガだもんね。



「ふふーん、彼氏はいません!
ちょっと私も言ってみたくなって…

でも嘘つくのって、あんまり気持ちよくないね」


「それならよかった………
俺さ、今も亜衣のことが好きなんだ

今ならちゃんと胸張って、堂々と言える」


「私もね、翼が好き。
この気持ちはずっと変わっていないよ」


「亜衣、俺達結婚しよう?
今すぐにではないけど、落ち着いたら籍だけでも入れないか?」


「はい!
こちらこそ宜しくお願いします!」


側で温かく私達のやり取りを見ていた両親が、″おめでとう!″

と 言って、拍手した。


私の両親がいる前だったからか、翼が深く頭を下げる。


″ずいぶん頼もしい男になったな″ と言って、お父さんが翼の肩を二度叩いた。


家族に認められ、祝福された私達。
これからも翼と、たくさん笑い合える家庭を作りたい。