ようやく涙を晴らし、いつもの自分に戻る。
心配した沙智がカラオケに誘ってくれて、今から行くことになった。

赤く腫らした目を、少しでもマシに見えるように、メイクでごまかす。
家に帰ってから家族に話そう。

今自分が抱いている気持ちを、ちゃんと打ち明ける。


「沙智ー!!」


待ち合わせの駅前に着き、私は名前を叫びながら沙智に飛びついた。
沙智とは歳が離れているはずなのに、親しみやすくて、何でも気楽に話せる。


「亜衣さーん!!
今日も可愛いですね」


「ありがと♪
今日さ、カラオケ行った後、最近できたタピオカ屋行かない?パンケーキもあるみたい!」


「タピオカ最近流行りですよね!
業務スーパーに売ってるタピオカ、簡単だしめっちゃおいしいですよー!
是非行きましょ!」


「甘さダブルでお願いします!」


「思わず笑顔になる、甘さダブル入りましたー!」


沙智と目を合わせ、フフッと声に出して笑う。
笑いが止まらず、度々風邪を引いたみたいに声が変になる。

笑いすぎるといつも痰が絡み、こんな感じになる。


「私、スーパーを選んでよかった!
本読むのも好きだから、実は本屋さんと悩んでいたんだよね」


「私もスーパーで働けてよかったです!
亜衣さんと出会えて幸せです!
これも素敵な巡り合わせですね。」


「素敵な出会いに乾杯!」


他愛ない会話をしながら、カラオケ屋に着いた。
そういえば、沙智とカラオケ来るの初めてだ…!

どんな歌声なんだろう。


「沙智はどんな曲歌うの?」


「私結構男の人歌うんですよ!
亜衣さんは?」


受付を済まし、カラオケルームに入る。
上着を脱いで、歌う体勢を整えた。


「私は半々かな
でも、恋愛系ばかり歌ってるよ
いい曲だと思ったら、そういうジャンルで…。」


「その気持ち分かります!
たまに自分とてらし合わせちゃうんですよね。」


曲を入れ、すぐさまメロディーが流れる。
こう来ましたかー。
沙智が入れたのは、一発目からビジュアル系の曲。

マイクを私に向け、ノリのいいナンバーで盛り上げる沙智。
歌声もかっこいいし、まるでライブに来ている気分。

歌が終わり、私は思わず拍手した。


「亜衣さんの歌声早く聴きたいです!」


沙智にはまだ、歌手になりたい夢の話を言っていない。
言ったら鼻で笑われそうで怖かった。

すごく上手い訳でもないし、音楽レッスンをプロに受けている訳でもないから、極普通の歌声。

家では毎日のように自主トレしてるが、上達しているのか、自分でもよく分からない。


私の入れた曲が流れる。
片想いが叶わなかった悲しいバラード。
でも諦めず、好きな人の夢を応援する歌詞。


「亜衣さん…私今、すごく鳥肌が立ってます」


歌い終わり、一呼吸置く。
やっぱり人前で歌うの緊張するなぁー。


「それは言いすぎだよ」


「いや、本当です!」


沙智がそう言い袖をまくる。
沙智の言う通り、鳥肌が立っていた。


「本当だ…!!」


「歌声で鳥肌立つことめったにないですよ。」



私は勇気を出して沙智に打ち明けた。
″亜衣さんならきっと叶いますよ!″

と 言って、背中を後押ししてくれた沙智。
私は沙智にたくさん励まされてるし、一緒にいてすごく楽しい。

沙智がいてくれたから、私は素の自分を出せて、たくさん笑えている。



良い人達に恵まれて、私はものすごく幸せ者だ。