しばらくしてお父さんが戻ってきた。


「どうだった?誰かいた?」


「あぁ、いたよ
本当に驚かすとはしょうもない奴だな
ハハハッ」


声に出し、目を細めて笑うお父さん。
なんだか楽しそう。


「驚かすってなんの話?
ゲームでもしてるの?」


「最近、武藤くんと仲良くなってな
その武藤くんが言うんだよ。娘さんのことを好きになりましたって…

さっき亜衣の話を聞いて、まさかと思ったが、その武藤くんも翼って言うんだ」


「武藤翼(ムトウ ツバサ)?」


彼の名前をようやく知った。
武藤翼…私は念仏のように心の中で唱える。

格闘家にでもいそうな名前。
私とお父さんが、翼に出会ったタイミングがまったく同じだ。

それに弟と ″翼″って下の名前が一緒なのも、ビックリ。
これは単なる偶然なのだろうか…。
それとも翼の計画によって、仕組まれていたのだろうか…。

何が本当で嘘なのか、私には分からない。
たくさん翼に聞きたいことがあるのに、聞けない現実。

もっと早く翼に出会っていたら、きっとまた違っていたかもしれない。


「あぁ、そうだ」


「どうして仲良くなったの?」


「武藤くんの話になると、亜衣は質問攻めだな!
一人で居酒屋行った時に、少し酔ってしまったんだよ
その時に武藤くんが介抱してくれて、家まで送ってくれたんだ。
お礼も兼ね、後日飲みに行って仲良くなったとこかな。」


「なんでそこに翼がいたんだろう?」


「さぁーそれは分からんが、同じく酒が好きらしいし、一人酒じゃないか?」


お父さんが知っていて、私の知らない翼がいっぱいいる。
私は名前さえ知らなかった。


「それにしてもよくできた話だよね。
用事は結局何だったの?」


「これを亜衣に持ってきたんだよ」


お父さんから、ラッピングされた小さな袋を受け取る。

何が入ってるんだろう。
サイズ的にアクセサリーとか?

ラッピングを剥がし、中を開けるとミサンガが出てきた。
オレンジと黄色が混じった明るい色で、A・Mとイニシャルが書かれている。
銀色の小さなハートも付いている。


「ミサンガ…?」


「武藤くんいわく、幸運を呼ぶミサンガらしいぞ!
亜衣が歌手を目指してること、実は話しちゃったんだよ
お守りとして付けてほしいって」


「そうなんだ
幸運を呼ぶミサンガかぁー!
とても素敵だね」


私は早速ミサンガを腕に付ける。
付けたミサンガを見ているだけで、幸せな気分になれた。



それはきっと、翼がくれたから。
大切にしなくちゃ!翼、ありがとう。