安心してるのも束の間に、ピンポーンとチャイムが鳴る。

彼の噂をしていたからだろうか…。
嫌な予感しかしない。


「こんな時間に誰だ」


「待って!行かない方がいいんじゃない?」


「本当に亜衣は怖がりだなぁ」


いつもはすぐ玄関に向かうお父さんと一緒に、恐る恐る玄関モニターを見た。
そこには誰も映っておらず、木々が風で揺れる音だけが聞こえた。


「やっぱり誰もいないじゃん」


「ここは一家の主だ!
お父さんが様子を見てくる」


「気をつけてくださいね」


「なんでお母さんは止めないの?
何かあってからじゃ遅いんだよ…」



平然な顔をして言うお母さんを見ていると、怒りを通り越して、ポロポロと涙が溢れた。

どうして?
泣きたくて泣いてる訳じゃないのに、今すごく悲しい。
自分の感情を上手くコントロールできない。

26にもなるのに、少し恥ずかしく思う。


「大丈夫だよ。」


優しくそう言ったお母さんは、私にティッシュを差し出した。

それを受け取り、涙を拭く。
いつからこんなに涙もろくなったんだろう。

小さい頃もよく泣く子だったし、昔からずっと変わっていないかもしれない。


「じゃあ、行ってくる」


一言交わし、リビングを出ていくお父さんの背中を見つめた。


「お母さんは正直どう思う?
さっきの話」


二人っきりになった私は、お母さんの本音を探る。


「あぁー、あの彼の話ね
これはお母さんの個人的な意見なんだけど、その人が悪い人に見えないの」


「えっ、どうしてそう思うの?」


「悪い人だったら、自分の危険をおかしてでも、亜衣のこと助けないでしょ?

もしかしたら、亜衣がその人の心を揺り動かしたのかもね。」


「そうなのかなぁ…」


華が咲いたように喜ぶお母さんと裏腹、私は今自分の心と格闘している。

格闘し終え、自分で決断した答えは、やっぱり"彼が好き"だということだった。

彼が何者か分からなくたっていい。


ただ今は…もう一度彼に会いたい。

もう一度彼に会って話がしたい。


その願う想いばかりが、頭の中を交錯した。