アイとウソ

「お疲れ様です!」


「お疲れ様ー」


仕事が終わり、職場仲間に挨拶する。
レジ打ちの最中、危うく値引き忘れをしそうになった。
仕事中にも、あのお客さんが来たらどうしよう!ってそわそわしていたけど、結局あの人は来なかった。

来ても上手く話せないと思う。

お店の外に出ると案の定雨は止んでおり、ふと空を見上げる。

星がまばゆく光ってとてもキレイ。

私もこの星のように、心がキレイだったらよかったのにな…。

今日は帰りが歩きということもあり、いつも以上に早歩きする。

中道に入ると更に暗くなり、家の明かりと、オレンジ色に点る街灯だけが頼り。

夜は人通りも少ない。

私はなぜか、たまに後ろを振り返って人がいないか確認した。


「すいません…!」


突如聞こえてくる男性の声。
空耳だろうか?それだったら尚更怖い。

私は後ろを一切振り返らず歩き続ける。


「すいません!聞こえてますか?」


えっ、と咄嗟に声が出る。
ヤバイと思った時にはすでに遅かった。


「やっぱり聞こえてるじゃん」


もう嫌だ。
何でよりによって今日なの…。
そう思いつつも私は、まるで聞こえていない振りをして、そのまま走り出した。

後ろから足音が聞こえる。


「何で走るの?」


40代くらいだろうか。
追いついたスーツ姿の男が私の腕を掴み、そう言った。


「これから見たい番組があって…
録画するの忘れたんですよ!だから」


「嘘ついてるのバレバレだけど」


腕を強く掴まれているから、うまく抵抗できない。
やっぱり護身術を覚えておくべきだった。

一呼吸置く。

どうしよう。どうやって逃げよう。

私達以外、周りに人の気配はないし、この状況かなり危ない。


「何してんだ…!!」


顔が強張り、もうダメだと思った瞬間、聞き覚えのある声がした。

この声ってまさか・・・

次第に高鳴る鼓動。



やっぱりあの人だ。あのお客さんだ。
でも何でここにいるの?