出勤の10分前に、仕事先のスーパーに着いた。
着いた頃には雨が止んでおり、アスファルトも次第に乾いている。
自転車で来れば良かったと、今更ながら後悔。


「おはようございます!」


「おはよう!そういえば聞いた?」


休憩室に入ると、年配の堀田千恵(ホッタ チエ)が第一に声をかけてきた。
近くには、男性マネージャーの川元悠史(カワモト ユウジ)がいる。


「聞いたって何をですか?」


「もしかして聞いてないの??」


「はい。何も聞いてないです…」


堀田さんが驚いた顔をしてこちらを見る。
川元さんは聞く耳を立てず、スマホの画面を覗いていた。

きっとネットニュースでも見ているのだろう…。


「実はさぁ、さっちゃんに彼氏ができたみたいなのよ」


堀田さんが、″さっちゃん″と呼んでいる人は沙智しかいない。

でも彼氏が出来たのなら、何で私に話してくれないのだろう?
もしかして訳ありとか・・・


「そうなんですか…」


「実はその彼氏、亜衣ちゃんが最近いい感じだって言っていた、お客さんみたいなのよね…
だからさっちゃん、言えなかったんだと思う。」


「えっ、でもそんな素振りなかったじゃないですか」


私は驚きを隠せなくなり、ただ動揺するばかり。
次第に沙智に対して恐怖心を覚える。

こんなことってある?でもあのお客さん、沙智のレジに並んだことなかったよね?

いつも私のレジに並んでいたのを、自分自身がよく知っている。
私の気づかないところで、仲良くなってたってこと?


もう誰も信じられない。
もしそれが本当だったら、私は沙智を嫌いになるかもしれない。

そんな簡単に壊れるものなんだね、友情って・・・



だんだん速くなる鼓動。私は咄嗟に胸を手で押さえた。