「たっだいまー」
 ドアを開けた途端、麻衣夏が飛びつくように爽平に抱きついてきた。
 あまりの反動で後ろにコケそうになるところを彼はなんとかこらえる。
「おいおい、危ないだろ」
「ごめんごめん。お土産いっぱいあるから許してちょ」
 そう言って彼女は、大きめのボストンバッグをテーブルの上に置く。
「まったく」
「はい、ちんすこう!」
 まるで猫型ロボットが自分のポケットからアイテムを取り出すかのような口調だった。もちろん、実際はボストンバッグの中からだが。
「おまえ、そんなベタな土産で俺が喜ぶと思っているのか」
「じゃ、ミミガージャーキー!」
 再び猫型ロボットのマネをする。
「おっ!」
「泡盛古酒ゼリー」
「いいじゃん」
「やんばるスモモドリンク!」
「健康的だねぇ」
 麻衣夏の鞄はまるで中が四次元であるかのように、次から次へと変わった土産が出てくる。
「スイカジャム!」
 目の前に突き出される小瓶。金属の蓋部分は緑と黒の縞模様のデザインだった。
「……麻衣夏、それは本当に沖縄土産なのか?」
 目を細めて麻衣夏を睨む。
「えー、お土産屋さんで売っていたよぉ」
「おまえそれは絶対騙されているぞ。それに俺、西瓜嫌いって言わなかったっけ」
「そうだっけ」
「わざとだろ」
「てへへへ、バレたぁ?」
 悪びれた素振りもせず麻衣夏は舌を出す。
「そういうネタはしつこいと嫌われるぞ。俺、ホントに嫌いなんだからさ」
 爽平は嫌悪感剥き出しでそう答える。
「へぇー、じゃあさ」
 麻衣夏の笑顔が歪む。
「なんだよ」
「なんで嫌いか考えたことある?」
 なぜかぞくりと背筋が凍る。
「え?」
「ま、いいんだけどね。食わず嫌いでも、よっぽど不味い西瓜を食べてトラウマになったでも」


 いつものように爽平は麻衣夏を家まで送っていく。
 ついでに部屋に上がってお茶をごちそうになってしばらく歓談してから帰る、というのが習慣となりつつあった。
 さあ帰ろうかと爽平が席を立ったところで玄関のチャイムが鳴る。
 麻衣夏が早足で駆けだしてドアを開けると、宅配便業者だった。
 なにか両手で抱えられるくらいの段ボール箱を受け取っている。
「なに?」
 応対の終わった彼女にそう問いかけた。
「実家からだね」
 そう言って、いきなり爽平に段ボール箱を渡す麻衣夏。
「え? うわ、けっこう重いじゃん」
 思わず受け取ってしまってから、その重さに彼は驚いた。
「今、カッター持ってくるから、伝票剥がしておいて」
 とりあえず箱を床に置くと、上面に付いた送り状を爽平は丁寧にはがし始める。
「川崎市○○区○○町って俺の実家の近くだなぁ」
「おまたせ!」
 カッターを持った麻衣夏が戻ってくる。
「麻衣夏の実家って○○町だったんだ。もう少し近くだったら、学校同じで幼なじみになれたかもね」
「へぇー、爽平の実家もあそこらへんだったんだ」
 彼女が手早く段ボールの上部のテープを切ると、ニヤニヤとしながらそのフタを開けた。
「なんだった?」
 爽平は気になって、その中身を覗く。
「西瓜だよ」