「お似合いだったと思うけどなぁ」
未来ちゃんの言う通り、ふたりはお似合いで噂されていたほどだった。あのことがなければ、ふたりは今ごろ付き合っていたかもしれない。
「ないない。お似合いなのは私じゃないでしょ」
「まあ、悠理か采花のどっちかと瀬川が付き合ってるんじゃないかってみんな思ってたんじゃない?」
私の名前を出されて、思わず背筋が伸びる。周りから見たら、私たち三人の中の誰かが付き合っているように見えていたのかと、なんとも言えない気持ちになった。
「私は……」
言葉の続きが出てこない。
采花の気持ち。瀬川くんの気持ち。私の気持ち。全部が綺麗に纏まるはずがなくて、私たちは変わらない関係ではいられなかった。
未来ちゃんがサイダーを購入すると、采花はそれを見つめながら百円玉を握りしめた。
「采花?」
「あ……ちょっとトイレ行ってくるから、先に戻ってて」
采花の様子がいつもと違うのは未来ちゃんもわかっているようで、なにか言いたそうに開きかけた口を躊躇うように閉じて頷いた。
私は未来ちゃんと教室に戻るか、采花と一緒に行くか迷ったけれど、采花のことがどうしても気になって追っていく。
元来た道とは逆方向へと足を進めていった采花はトイレの前を通り過ぎて、音楽室へと入っていくのが見えた。
中に入ると電気はつけられていなかったが日差しのおかげで十分すぎるくらい明るい。けれど采花の姿が見当たらない。普段生徒たちが座っている席は空っぽで、教卓にも誰もいなかった。
室内をくまなく探してみると、窓際の端っこになにかを発見した。よく見ると両膝を抱えて座っている女子生徒の姿。
「……采花?」
普段の采花からは想像がつかないくらい、弱々しく肩を震わせている。
「私……どうしたらよかった?」
掠れて消えそうなくらい小さな声だった。もうすぐ一年が経つけれど、采花は未だに苦しんで悩んでいる。
なにも言うことができなくて、私は采花の隣に座ることしかできなかった。
采花が強くないことは知っている。気が強くて明るくて、よく笑う采花を悩みがなさそうなんて失礼なことを言う男子もいたけれど、落ち込むことがあるとなかなか立ち直れなくて脆い部分を持っている。
そんな采花を私は支えていたつもりだったのに、なにもできていなかった。采花の苦しみをどうしたら軽くすることができるのだろう。
自分の手を見つめながら、下唇を噛み締める。
采花のために今の私ができることはあるのだろうか。