そこに足音が聞こえ、美礼は慌てて涙を拭う。泣いている姿を誰にも見られたくなくて、下を向いて黙々とお弁当を食べ出した。
……こんなことをしなくても、バレることはないのに。
だって私に声を掛けてくれる人も、気に掛けてくれる人もいないのだから。
「ねぇ、そこのベンチには座らない方がいいよ。座るならあっちにしときな」
「え?」
まさか声を掛けられると思わなかった美礼は、慌てて顔を上げる。
そこにはヤンチャそうな見た目の男性がいた。
「そのベンチ、ボロボロだろ? だからもう壊れると思うよ」
確かにこの裏庭にある2脚のベンチは、どちらも古びている。しかし壊れるなんて――。
少し訝しく男性を見上げていると、急に体が傾いた。
「きゃっ」
ボキッと1本の足が壊れ、バランスを崩す。自分は倒れなかったが、膝の上に乗せていたお弁当は地面に転がった。
「大丈夫か?」
「は、はい。大丈夫です」
本当に壊れるとは思わなかった。
だが料理上手の母親が作ってくれた、彩り豊かなお弁当は無駄になってしまった。無残に転がるおかずは、まるで自分のように思え――無性に悲しみが込み上げてきた。
大学生活を楽しいと思えたことがない。そればかりか辛くて切なくて、惨めな気持ちになるだけだ。
どうしようもなく泣きそうになりながら、散乱したおかずを拾う。
「せっかく美味しそうなお弁当だったのにな」
涙を堪えていると、隣で男性もおかずを拾い出す。
「あ、私が拾いますから。すみません」
申し訳なくてそう言ったが、手伝うよと返ってきた。
「ここってあんまり人が来ないからさ。こんなに危ないのに、修理すらしてくれないんだよ。利用する人だって、いるのにな」
拾い終わると、悲しそうに苦笑いを浮かべる。
「ありがとうございました」
お礼を言って急いでここを去ろうとしたが、待ってと止められた。
「あっちのベンチなら、壊れることはないと思うから」
そう言って男性は手にしていたレジ袋から、パンを取り出して見せた。
「たくさん買ったから、一緒にお昼食べない?」
――これが原田凌(はらだ りょう)との出会いだった。
……こんなことをしなくても、バレることはないのに。
だって私に声を掛けてくれる人も、気に掛けてくれる人もいないのだから。
「ねぇ、そこのベンチには座らない方がいいよ。座るならあっちにしときな」
「え?」
まさか声を掛けられると思わなかった美礼は、慌てて顔を上げる。
そこにはヤンチャそうな見た目の男性がいた。
「そのベンチ、ボロボロだろ? だからもう壊れると思うよ」
確かにこの裏庭にある2脚のベンチは、どちらも古びている。しかし壊れるなんて――。
少し訝しく男性を見上げていると、急に体が傾いた。
「きゃっ」
ボキッと1本の足が壊れ、バランスを崩す。自分は倒れなかったが、膝の上に乗せていたお弁当は地面に転がった。
「大丈夫か?」
「は、はい。大丈夫です」
本当に壊れるとは思わなかった。
だが料理上手の母親が作ってくれた、彩り豊かなお弁当は無駄になってしまった。無残に転がるおかずは、まるで自分のように思え――無性に悲しみが込み上げてきた。
大学生活を楽しいと思えたことがない。そればかりか辛くて切なくて、惨めな気持ちになるだけだ。
どうしようもなく泣きそうになりながら、散乱したおかずを拾う。
「せっかく美味しそうなお弁当だったのにな」
涙を堪えていると、隣で男性もおかずを拾い出す。
「あ、私が拾いますから。すみません」
申し訳なくてそう言ったが、手伝うよと返ってきた。
「ここってあんまり人が来ないからさ。こんなに危ないのに、修理すらしてくれないんだよ。利用する人だって、いるのにな」
拾い終わると、悲しそうに苦笑いを浮かべる。
「ありがとうございました」
お礼を言って急いでここを去ろうとしたが、待ってと止められた。
「あっちのベンチなら、壊れることはないと思うから」
そう言って男性は手にしていたレジ袋から、パンを取り出して見せた。
「たくさん買ったから、一緒にお昼食べない?」
――これが原田凌(はらだ りょう)との出会いだった。