来客を教えるドアベルは高い音ではなく、鈍い音で部屋の中に響く。控えめに開けられた扉の隙間から、中の様子を伺うのは女だった。

 ゼクスは勢いよく立ち上がり、お客を迎えに行く。腕に寄り添っていたエリーは支えを失い、ソファの上に倒れた。


「いらっしゃいませ。どうぞ中へ」

 にこにこと手を差し出して、ゼクスは中へ促す。しかし女は眉を下げるだけで、入ろうとしない。

「どうしました?」
「あ、あの……ここって、探偵事務所ですか?」
「探偵事務所ではないです。そうですね、言わば何でも屋、と言ったところでしょうか?」
「じゃ、じゃあ店の看板に書いてある "願いを叶える" って言うのは……」
「そのままの意味ですよ。あなたの願いを叶える店です」

 またゼクスはにっこりと笑うと、ようやく女は足を動かした。おずおずと中に入って来て、促されるままソファに腰掛けた。

 化粧っ気のない顔に茶色い縁の眼鏡。ただひとつに束ねられた髪。ぽっちゃりした体型を隠す為か、上下ダボッとした服装。見るからに地味な印象。
 終始困ったような表情で、室内をちらりと見る。


「どうぞ」

 素っ気ない声とともに、女の前にティーカップを置く。ちゃんと仕事をするエリーだが、ふたりきりを邪魔されて、不機嫌に女を見る。

「そんなに硬くならず、紅茶でも飲んでリラックスして下さい」
「あ、はい。では、いただきます」

 女は慌てて答え、ゆっくりと紅茶を口にした。美味しいと思ったのか、表情が少し和らぐ。
 それを見逃さなかったゼクスは、話を切り出した。