2講目までが無事終わり、皆で食堂に向かう。わいわいと会話は尽きることなく、廊下を歩く。目の前からふたりの女が歩いてきて、一史達の横を通り過ぎて行った。

 何だかやけに見られていた気がする。一史はじっと見られる視線を感じた。しかし俺に気でもあるのか? など、この時はのんきに浮ついたことを考えていた。

「――あの人だよね? SNSに上がってる人って」
「多分そうだよ。特徴が似てるもん」
「あんなこと書かれているのに、よく学校来れるよねー」
「書かれてること、本人は知らないんじゃない?」

 くすくすと笑いながら、女ふたりが口にする。それは一史に聞こえるはずもなく、何事もなく食堂に辿り着いたのだった。


 見られていると感じたのは、廊下を歩く時だけではなかった。食堂で昼食を食べている時も、ちらちらとこちらを見る視線に気付く。そちらに目を向ければ知らない奴と目が合い、すぐに逸らされる。最初こそ気のせいかとも考えたが、数の多さに気のせいではないと思った。

 ……何なんだ? 何でこんなに見られるんだろう?

 今日の服装でもおかしいのだろうか? それとも顔に何か付いてる?

 疑問と不安が入り交じり、自分の全身を見渡す。だがおかしいところは見付からず、またこちらを見ていた男と目が合った。

 見られているのは俺じゃない……?
 そう思い篤達を見るが、特に何かあると言った感じには見られなかった。

「一史、どうしたんだ?」

 自分をじっと見られていることに気付いた隆介が訊ねる。

「あのさ、俺の顔に何か付いてる?」
「え? 何も付いてないけど」
「何かあったのか?」
「いや何か……周りからやたら見られている気がしてさ」
「見られてる?」

 聡太が言って、食堂内をぐるりと見る。

「気のせいじゃないか」

 しかし聡太には、視線を感じることはなかった。

「そっか。じゃあ俺の勘違いだな」

 はははと笑って、話していたことを再開した。

 自分にしか視線を感じないのだから、気のせいなのだろう。
 そう思い込むことにしたものの、この日から違和感は小さく火を灯したのだった。