大学2年生の一史は、特に何かを目指してそこを選んだ訳ではなかった。
まだ就職はしたくなかったから、進学を選んだだけ。残りの4年間を楽しく過ごそうと、自分のレベルを落とした大学に入学した。
一史はそこそこ頭が良かった。身を入れて勉強すれば、それなりの大学に行くことも出来た。高校の担任や塾の講師にも、もっと上に行くべきだとも言われだが、それを目指すことはなかった。
とにかくしんどいことや辛いことが嫌いで、出来る限り楽をしたい――。そんな思いが通じたのか、入学した大学で苦労することもなく、難なく2年生へと進級した。
人当たりが良いこともあって、一史は昔から友人が多い。それは大学でも変わらず、いつも友人達と一緒にいると言った状況だった。
一件、何の不満もないように思える。充実した毎日を送っている中で、何故ゼクスの元にやって来たのか――?
一史の中で疑問が湧いて出てきたのは、2年生に進級してすぐくらいのことだった。
だがそれは最初小さ過ぎて、気付かないくらいだったのに、次第にじわじわと大きく広がりを見せた。
大学に登校して来た一史は、1講目が行われる教室に入る。前の方に座るのは避け、いつも後ろ側に座る。しばらくしてひとり、ふたりと友人達がやって来て、一史の周りは賑やかになる。
それが毎日の決まりのようなものであり、こうして1日の授業が終わるまで、楽しく過ぎる。
「はよー」
この日もいつも最後に登校して来る篤(あつし)がやって来た。
「おはよー」
一史達が挨拶をし、相変わらずボサボサ頭の篤は眠そうな顔で隣に座った。
「なぁなぁ、昨日のトークしましょう見たか?」
「見た見た。俺の好きな漫画の回だったし」
「めちゃくちゃ面白かったよな」
トークしましょうとは、深夜にやっているテレビ番組だ。芸人達が集まって、その時の題材を話し合う。紹介しつつも面白おかしくトークするのだが、それが毎週面白くて、一史達の間では見て当たり前のようになっていた。
「あ、俺も見た。その漫画読んだことないんだけど、読んでみたいなって思ったよ」
一史が会話に加わると、マジで? と返ってくる。
「あれ読んだことないとか、損してるぞ」
「え? そんなに?」
「そうそう、俺から言わせれば有り得ん」
今日もビシッと髪型を決めた隆介(りゅうすけ)が言うと、他の友人もうんうんと頷いた。
「そうなんだ。うわ、めちゃ読みたくなった。貸してくれ」
「俺、電子書籍で買ってるから、スマホの中にしかないわ」
「じゃあ聡太(そうた)」
左耳にピアスを着け、一史達の中で1番のオシャレの聡太に振るが、彼も悪いなと言う。
「いつも満喫に読みに行くから」
「えー? 篤は?」
「俺は兄貴が買ってるから」
誰も漫画本を持ってないのかよとスネれば、眼鏡を掛けた昇(のぼる)が苦笑した。
「お前金持ちなんだから、自分で買えばいいじゃん」
そう言われて、教授がやって来た。騒がしかった室内は静かになり、授業が始まる。前に座る昇は真剣にノートを取り始め、隣の篤は机に突っ伏して寝ている。
一史も教科書は出すものの、教授の話をうわの空で聞く。この授業は出席さえしてれば、単位は取れるからだ。
後ろの席で他の生徒達をぼんやり見ながら、今日の帰りに本屋に寄るかと考えた。
まだ就職はしたくなかったから、進学を選んだだけ。残りの4年間を楽しく過ごそうと、自分のレベルを落とした大学に入学した。
一史はそこそこ頭が良かった。身を入れて勉強すれば、それなりの大学に行くことも出来た。高校の担任や塾の講師にも、もっと上に行くべきだとも言われだが、それを目指すことはなかった。
とにかくしんどいことや辛いことが嫌いで、出来る限り楽をしたい――。そんな思いが通じたのか、入学した大学で苦労することもなく、難なく2年生へと進級した。
人当たりが良いこともあって、一史は昔から友人が多い。それは大学でも変わらず、いつも友人達と一緒にいると言った状況だった。
一件、何の不満もないように思える。充実した毎日を送っている中で、何故ゼクスの元にやって来たのか――?
一史の中で疑問が湧いて出てきたのは、2年生に進級してすぐくらいのことだった。
だがそれは最初小さ過ぎて、気付かないくらいだったのに、次第にじわじわと大きく広がりを見せた。
大学に登校して来た一史は、1講目が行われる教室に入る。前の方に座るのは避け、いつも後ろ側に座る。しばらくしてひとり、ふたりと友人達がやって来て、一史の周りは賑やかになる。
それが毎日の決まりのようなものであり、こうして1日の授業が終わるまで、楽しく過ぎる。
「はよー」
この日もいつも最後に登校して来る篤(あつし)がやって来た。
「おはよー」
一史達が挨拶をし、相変わらずボサボサ頭の篤は眠そうな顔で隣に座った。
「なぁなぁ、昨日のトークしましょう見たか?」
「見た見た。俺の好きな漫画の回だったし」
「めちゃくちゃ面白かったよな」
トークしましょうとは、深夜にやっているテレビ番組だ。芸人達が集まって、その時の題材を話し合う。紹介しつつも面白おかしくトークするのだが、それが毎週面白くて、一史達の間では見て当たり前のようになっていた。
「あ、俺も見た。その漫画読んだことないんだけど、読んでみたいなって思ったよ」
一史が会話に加わると、マジで? と返ってくる。
「あれ読んだことないとか、損してるぞ」
「え? そんなに?」
「そうそう、俺から言わせれば有り得ん」
今日もビシッと髪型を決めた隆介(りゅうすけ)が言うと、他の友人もうんうんと頷いた。
「そうなんだ。うわ、めちゃ読みたくなった。貸してくれ」
「俺、電子書籍で買ってるから、スマホの中にしかないわ」
「じゃあ聡太(そうた)」
左耳にピアスを着け、一史達の中で1番のオシャレの聡太に振るが、彼も悪いなと言う。
「いつも満喫に読みに行くから」
「えー? 篤は?」
「俺は兄貴が買ってるから」
誰も漫画本を持ってないのかよとスネれば、眼鏡を掛けた昇(のぼる)が苦笑した。
「お前金持ちなんだから、自分で買えばいいじゃん」
そう言われて、教授がやって来た。騒がしかった室内は静かになり、授業が始まる。前に座る昇は真剣にノートを取り始め、隣の篤は机に突っ伏して寝ている。
一史も教科書は出すものの、教授の話をうわの空で聞く。この授業は出席さえしてれば、単位は取れるからだ。
後ろの席で他の生徒達をぼんやり見ながら、今日の帰りに本屋に寄るかと考えた。