ひょこっと顔を出したのは、真面目そうな青年。短い黒髪に、シャツを羽織ったジーンズと言うカジュアルな格好から、至って普通と言う印象を受ける。

「あのー……。まだ営業時間外ですか?」

 室内はまったりとした空気が流れており、どう見ても仕事と言った雰囲気ではない。だがそれもそのはず。今の時刻は朝の7時半である。こんな早くに客が来るとは、まさか2日連続で来るとも思っておらず、完全に不意打ちをくらった感じだった。

「いえ、大丈夫ですよ。すみません、お迎えが遅くなりました」

 少しの間の後、ゼクスは慌てて青年を迎え入れる。またもや支えを失いソファーに倒れたエリーは、ふてくされた顔をして立ち上がった。

「すみません、やっぱ早過ぎましたよね?」
「いえいえ。営業時間はあってないようなものですから、いつでも大歓迎です」

 にこりと笑って迎え入れられたことに、青年はひとまず安心する。どうぞと言われ、ふかふかのソファーに腰を下ろした。

 カチャンとティーカップが置かれお礼を言うが、エリーは答えない。むすっとした表情を見て、邪魔しちゃったよなぁと思った。
 しかし同時に釘付けになる程の容姿と、大胆な服装に目を泳がせる。


 ――たまたま昨日見付けた店。願いを叶えますと言う文言に興味を持ち入店しようとしたが、生憎店が閉まっていた。その時ゼクス達は、美礼の大学に行っていたからだ。
 営業時間などをネットで調べたが、何ひとつ情報がなかった為、大学に登校する前に再び足を運んだ。すると店内に明かりが付いていたので、思わず入店した。と言うのが青年の流れである。

 怪しげな小物や豪華な家具。それが雰囲気を作り出しており、そわそわと落ち着かない。
 それと従業員同士がイチャついていた――ただエリーがくっ付いていただけではあるが、見てはいけないものを見てしまったなと、妙に顔を合わせられないでいた。

 ふたりはどう見ても恋人同士だ。美男美女の職場恋愛かぁ、いいななどと考えていると、ゼクスが話し始めた。


「どうぞ、リラックスして下さいね。まずは自己紹介をしましょう。俺はゼクス。あちらにいるのはエリーゼです」
「あ、俺は玉川一史(たまがわ ひとし)です」

 軽く頭を下げて、ゼクスを見やる。日本人離れした顔立ちと名前に、外人さんなんだと思う。

「では仕事内容は後で説明しますので、まずはあなたの叶えたい願いをお聞かせ願えますか?」
「はい。えっと……うまく纏められないかも知れませんが……」

 そう前置きをして、一史は話し出した。