――ざわり!
 一瞬で美礼の背筋に寒いものが走った。そうして図らずも、ずっと違和感に思っていたことが、嫌でも理解出来た。

「……最期って……そう言う、こと……?」

 悟ったと分かり、ゼクスはにやりと笑う。

「えぇ、そう言うことです。俺が欲しいのはお金ではない。あなたの――命です」


 美礼は慌てて席を立つ。足をもつれさせながら扉に走るが、いつの間にかゼクスがそこに立っていた。

「店の看板にも契約書にも、ましてや言葉にして何度も伝えましたよ。"最期" だと言うことを」
「や……そんな……分かんない……」

 後ずさりながら、力なく首を横に振る。
 確かに来た時は死にたいと思っていた。でも今は、死にたくない。

 強烈な恐怖に、美礼の目から涙が零れる。
 そんな彼女を見ながら、ゼクスは右手を伸ばした。


「依頼は完遂された。では報酬として、命を払って頂きましょう」

「――嫌あぁぁぁ!!」

 悲鳴が響いた刹那、ぷつりと糸が切れたように、美礼の体が崩れ落ちた。
 派手な音を出し倒れたが、ぴくりとも動かない。

 受け皿のようにしたゼクスの手の平の上には、白いものが浮いていた。靄のように蠢きながら、丸く形作っている。

「人間の魂は心の美しさにより、白に近付く。醜い者はドブ水のように濁っているが、清らかな者は眩しい程に輝く」

 ゼクスは愛おしそうに、それを眺める。

「美礼さんはやはり、心の美しい人間だった」

 にこりと笑い、ぱくりと魂を食らった。