店に戻って来たゼクスと美礼は、向かい合わせでソファに座った。エリーは上機嫌に紅茶を準備する。
 ゼクスの前に丁寧にティーカップを置くが、相変わらず美礼の前には、音を鳴らして置いた。

 優雅な手付きで匂いを嗅ぎ、ゆっくりと一口飲む。うん、うまいとゼクスは呟いて、ティーカップを置いた。

「あなたの願いは叶えられたと言うことで、これで終わりとなりますが、よろしいでしょうか?」

 本題を切り出すと、美礼はこくりと頷く。

「はい。充分過ぎる程に叶えて頂きました。本当にありがとうございました」
「いえ。こちらとしても満足して頂けたようで、とても嬉しいです」

 ゼクスもにこにこと、嬉しそうに笑う。そんな姿を見ながら、美礼は感謝を話し出した。


「正直、凌君に騙されていたと知った時は、生きている意味が分かりませんでした。もう死んだっていい。むしろ生きていたくないと思いました。そんな時に偶然この店を見付けて、せめて最後に見返してやりたいと思って、ゼクスさんにお願いしました。凌君が怪我をしたことは……ごめんなさい。やり過ぎ何じゃないかとも思いましたけど、でも気持ちがすっきりしたのも事実です」
「あれくらい、まだぬるいと思いますがね。でも彼も思い知ったことでしょう。人を騙すと報いがくると言うことを」

 口元に笑みを浮かべ、ゼクスは紅茶を口にする。美礼は微笑んで、そうですねと言った。

「今回のことで、少し希望も持てました。あなたのように、ちゃんと中身を見てくれる人もいる。次はそんな人と出会って、幸せな恋愛をしたいなって」

 ゼクスとの仮染の恋愛は、とても居心地が良く、それでいてドキドキが治まらない、素敵なものだった。
 これで終わるのは惜しくて、ゼクスが本当に彼氏だったらとも思う。しかしそれは違うなと、楽しかった思い出のひとつにしようと思った。

 照れながら話す美礼だったが、ゼクスは静かにティーカップを置いた。微笑んでいるが、どこかいいものに思えない。僅かに訝しさを覚え、美礼の顔から笑顔が消えた。


「美礼さん、それは違います。契約違反ですよ」
「え?」

 言われた意味が分からない。必死に契約内容を思い返そうとするが、決して外れることのないゼクスの目の圧に呑まれ、思うように頭が回らない。

「ちゃんと契約書に書かれていたでしょう? それをあなたは、ちゃんと読んだはずだ」

 言葉は出てこない。目は怯えたものに変わり、表情も曇る。


「叶えるのは "最期" の願い。最期であることを忘れぬようにと、書いてあったでしょう?」