「聞き捨てならないな」

 静かな低音は、怒りを含んでいた。ゼクスはふたりに歩み寄り、すぐの至近距離で足を止める。

「確かに世間からは、お前の方が美しいと言われるだろう。だが俺から言わせれば、お前の方がブサイクだ」
「……なっ! あんな女と比べて、どこが劣るって言うのよ!?」
「他人を蔑む心だ。外面の美しさと言うのは、内面から滲み出るもの。どんなに着飾ろうとも心が醜くければ、外面の美などすぐに剥がれる。その点で言えば、美礼は他人を羨むことがあっても、バカにはしない。美礼は心が美しい」

 愛梨の顔がかぁと赤くなっていく。怒りに体を震わせながら、掴み出た。凌が制止するが、それを振り切る。

「あなたこそ、ちょっとかっこいいからって調子に乗らないことね。あんなブスと付き合って、程度が低いんじゃないの?」
「ほぉ。原田凌に一心の愛を注いでいると言うことか?」
「当たり前でしょ! 私は凌君を愛しているの! 例えあなたが迫ってこようとも、私の心は揺るがないわ!」
「ならばその愛、試してみようか?」

 ゼクスがにやりと口端を上げる。同時に愛梨の顎をくいと持ち上げ、唇が触れる程の距離に顔を近付けた。
 美しい金色の左目に見下ろされる。不覚にも愛梨は見とれてしまった。

「お前の心を奪うなど、至極簡単なことだ」
「……言ったでしょ? 揺るがないって」

 何とか自我を保ち強がる愛梨の唇に、ゼクスは自らを重ねた。

「……んっ!」

 強く拒否をし暴れるが、次第に力が抜けていく。深い口付けはいやらしい音を何度も鳴らし、余りの出来事に凌は呆然と見るだけだった。

 しばらくして、ふたりの顔が離れる。途端愛梨はその場に崩れ、顔を赤く染めながら見上げた。潤んだ目は悔しさよりも、骨抜きにされたように見える。

「容易い女だな」

 僅かに出た舌を直し、ゼクスはくっと笑った。


 彼女が他の男に心を奪われる――。そればかりか目の前でまざまざと見せ付けられた凌は、怒りを漲らせた。同時に情けない愛梨を、冷たく見下ろす。

「……簡単に他の男に落ちやがって。お前には見損なったよ」

 何かを言い返したくても、愛梨は何も言えない。凌の言っていることは図星であり、見られていたのだから、反論の余地もなかった。

「所詮はお前も同じだ。この売女が」

 冷酷に告げられ、言葉なく愛梨は泣き出す。
 凌はゼクスに視線を戻し、ギリと歯を噛み締めた。